「昨年、乳腺外来とか乳腺科という診療科名が明記できるようになって、乳がんが心配で病院に行った時にどこに行ったらいいのかよくわかるようになりました。聖路加国際病院でもブレストセンターという標記がされているのですね。」
患者さんにとっては随分わかりやすくなったでしょう。女性の病気だから産婦人科が専門と思っている方も多かったようですが、これで迷わなくてすみますね。
「今は乳腺専門医を目指す医師も増えてきましたが、中村先生が乳腺の専門医を志望されたのはどうしてですか?」
外科医として必要な基本的な知識や技術を磨いた後に他機関で専門的な修行をしようと考えていた頃、テーマを決めて聖路加での業績を発表する機会があり、その時に乳がんのデータをまとめて発表したことがあったのです。それが乳がんに興味を持ったきっかけになりましたね。
「いろいろながんの中から乳がんに着目したのはどうしてですか?」
乳がんは治療をきちんとすれば予後が長い。それに治療経過や効果のデータをコンピュータでまとめることができれば後々患者さんのためになるだろうと思ったのです。当時コンピュータにも興味があったので、ぜひまとめてみようと考えたのがきっかけです。
「その頃の乳がんの治療はどのように行われていたのですか?」
私が医師としてかけだしの頃は、まだ日本では乳がんの世界的な標準治療が十分に浸透していませんでした。当時は日本全体を見渡すとハルステッド手術が主流でしたね。薬の分野でも、私が聖路加国際病院に勤務を始めた前年の1981年にタモキシフェンが日本で使えるようになったのです。それは画期的なことでした。よく覚えています。
*ハルステッド手術:乳房、大胸筋、小胸筋、わきの下のリンパ節をすべて取り除く手術方法
「今年は2006年ですから・・・それから25年、治療方法が急激に進歩したのですね。」
そう。傷あとが大きく、腕の動きが悪くなったりむくんだりする後遺症が出やすかったハルステッド手術は行われなくなって乳房温存手術が主流になり、腫瘍が大きい場合には術前化学療法により腫瘍を小さくしてから手術を行うようになってきました。聖路加国際病院では薬物治療はNCCNガイドラインを参考に治療方法を考えていますが、乳がんは治療薬の種類が多いので、患者さんの状態や価値観に照らし合わせて選択するようにしています。
「治療方法を選べる、それって、患者さんにとってもうれしいことですね。」
そうですね。先程話したように治療薬の種類も多いし、治療段階(術前、術後、再発等)によっても治療方法が違う。患者さんによっても異なる。医師もしっかり勉強しないといけないです(笑)。乳がんの患者さんはご自分でよく勉強されている方も多いですよ。
「でも中には手術の傷あとのことや治療方法のことを心配して、医療機関を訪れるのをためらっている方もいらっしゃいますね・・・やっぱり初めは何となく行きにくいかな・・・。」
不安な気持ちを引きずったまま過ごすのは嫌でしょう?何か異常を感じたら受診してみた方がいいですね。ご主人と来院されたりご家族の方といらっしゃったりする方も多いですよ。手術方法や治療方法は主治医の先生のお話を聞いて、それからご自分でよく考えて決める十分な時間はありますから。あまり身構えないで来ていただきたいです。
「最初に医療機関に行ってから診断までどれ位かかりますか?」
平均1〜2週間と考えておけばよいと思います。医療機関によっても異なりますが。
「乳がんと診断されてから手術まで1ヶ月かかると言われたけど不安だ、と相談されたことがあるのです。乳がんは急激に進行してしまうことはないのですか?」
乳がんが肝臓や肺などに転移してその臓器の正常な機能を損なう位の大きさになってしまっていると問題ですが、通常乳がんは1cmの大きさになるのに7〜8年かかると言いますから比較的進行の遅いがんと言えます。1ヶ月早く手術をしても乳房内に同じようにがんがとどまっている限り身体への影響は変わりないといえます。ですからあわてて治療を受けてしまい、あとで別の治療法にすればよかったと後悔するよりも、主治医の先生とよく話し合って決めた方が良いと思いますね。
「だからと言って、乳がんと診断されたら放っておいちゃダメですよね?」
もちろんです! いくら進行の遅いがんだと言っても長期間放っておけば大きくなってきますから、乳がんと診断されたら早期に治療を開始することが大切です。自然にがんが消えるということはまずないですからね。
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