乳がん検診と自己検診はなぜ必要か~乳がんの画像診断の難しさをひも解く がん研有明病院乳腺センター 乳腺外科部長/第24回日本乳癌学会学術総会 会長 (現:名古屋第一赤十字病院 乳腺・内分泌外科 乳腺センター長) 岩瀬 拓士先生

  • 第1回 自己検診のスタートは正常な自分の乳房の状態を知るところから
  • 第2回 乳がん検診で得られる利益、心配される不利益とは
  • 第3回 ここが難しい! 乳がんの画像診断
  • 第4回 乳がんの死亡率低下をめざして、望ましい検診の受け方とは

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第2回公開日:2016年9月16日

乳がん検診で得られる利益、心配される不利益とは

第1回は、自己検診の大切さと、検診には対策型検診と任意型検診があるというお話を伺いました。
第2回は、乳がん検診によって受ける恩恵ばかりでなく、デメリットもあることを、
少し専門的な話も含めて解説していただきます。

対策型の乳がんマンモグラフィ検診で期待される効果とは?

対策型の乳がん検診の目的は、日本女性全体の乳がんの死亡率が減少するか、あるいは乳がんで亡くなる人を少しでも減らすことです。放っておくと進行してしまうがんを、小さな早期のうちに見つけて治癒につなげることを目指しています。
乳がんは、小さなうちに見つかったら治る確率が高いことがわかっています。浸潤がんの大きさが1cmから2cm、2cmから3cmと1cmずつ大きくなるにつれ生存率が下がっていきます。がんは時間の経過とともに少しずつ大きくなりますが、約1年間で直径が2倍に大きくなっていくといわれています。 小さなうちに見つかれば、温存手術の可能性は高いですし、リンパ節もとらなくて済めば、身体への負担が少なくなります。術後の後遺症の心配も減りますし、もちろん治療費も変わります。小さなうちに見つけることはとても重要なことなのです。
そしてこれまで、小さながんを早く見つけるために、マンモグラフィ検診で石灰化*やその他の異常が見つかり、疑わしい場合は生検などの精密検査を行い、がんと診断されたら早期に治療をしなければと進められてきました。ところが最近、検診で発見されたがんの中には、過剰診断に相当するものがあるということがわかってきました。

*石灰化はカルシウムが沈着したもの。良性が多いが、悪性のものもあり、がんの発見につながることもあります。

小さなうちに発見できるようになった反面、過剰診断という新たな課題が浮かび上がってきたのですね。

過剰診断とはどういうものでしょうか?

岩瀬 拓士先生

「過剰診断」とは、良性を悪性と間違って診断することではありません。検診で見つかる乳がんのうち、すぐに治療しなくてもよいものを乳がんと診断することです。
乳がんは、初めは乳管の中に留まっている非浸潤がんですが、いつかは乳管を破って外に広がっていき、これを浸潤といいます。ずっと乳管の中に留まっていて外に破って出なければがんではなく、良性腫瘍です。乳管を破って外に出てくる可能性のあるもの(非浸潤がん)はがんと診断されます(治療方針の決定「乳がんの病期(ステージ)を知る」)。しかし、非浸潤がんの中には直ぐに浸潤がんに進行するものもあれば、浸潤するまでに10年、20年もかかるものもあります。例えば、進行するのに20年もかかる非浸潤がんを60歳を過ぎてから見つけたら、症状がなければ慌てて治療をしなくてもよいこともあります。それを診断するために生検をしたり、あるいは手術で摘出したりといった過剰な治療は、患者さんの負担になるばかりかもしれません。
その人の寿命とがんによる死亡のリスクを考えたときに、同じがんを見つけても、40歳代で見つかったときと70歳代で見つかったときでは過剰診断と判断されるかどうかが変わってくることがあります。

過剰診断は、乳がん検診で今すぐ治療しなくてもよいがんを拾い上げて、乳がんと診断することなのですね。

すぐに治療しなくてもよいがんとは?

例えば、おとなしいタイプ*の石灰化が見つかりがんと診断されることや、触ってもしこりが分からないのに、マンモグラフィ検診で非浸潤がんが広がっているのが見つかって、がんと診断がついてしまう人がいます。もしかしたら5年あるいは10年も変わらないかもしれません。40歳代の人なら、症状がなければ今すぐ手術しないで、浸潤するまで経過を観察してもよいかもしれません。若くして乳がんと診断され、経過観察を続けると不安になったり、やはり心配で切除することになったり等、さまざまな日常生活上の不都合が生じるかもしれません。また、逆に70歳代で同様のがんが見つかったとしても、乳がんで命を失う前にその人の寿命でなくなるとしたら、こちらも過剰な診断となるでしょう。
過剰診断は、最近海外でも話題となっていて、世界中で検討されている課題です。解決の一つとして、アメリカでは極めて小さながんに対しADH(Atypical Ductal Hyperplasia;異型乳管過形成)**という名前をつけました。それは2mm以下で、2腺管以内***のがんです。ごくわずかながん細胞しかなければ“がん”とは呼ばず、すぐに治療しなくてもよいようにADHと名付けたわけです。
乳がんと同様に比較的進行が緩やかで予後良好な甲状腺がんや前立腺がんでは、リンパ節に転移がなく、症状もない小さながんの場合、注意深く経過を観察することが治療の選択肢の一つとしてあります。
より小さながんをより早期に見つけることが、乳がん検診の目的であり、大切なことは変わりません。しかし、検診時にどのような経過をたどる乳がんなのかを見分けることは困難で、検診を行えば過剰診断は少なからず生じることになります。

  *:おとなしいタイプの石灰化とは、細胞の異型が小さく、悪性度が低い細胞からなる乳がんに伴う石灰化のことで、がん細胞の増殖スピードが遅いことが予想されるタイプです。

 **:ADHは、日本乳癌学会の「乳癌取扱い規約第17版」にも「非浸潤性乳管癌の診断基準を完全に満足していないものをADHと呼ぶことがある」と記載されています。

***:乳腺は母乳をつくる小葉と母乳を運ぶ乳管から構成されています。15~20本の主乳管が枝分かれをくり返し、小乳管から小葉内乳管へと続き小葉を形成しています。乳がんの多くは小葉内の乳管と小葉から出たばかりの小乳管から発生するといわれています。2腺管以内のがんとは、がんが見つかった小乳管がその顕微鏡での断面では2本以内ということです。

乳がん検診のメリットとデメリットについて、どのように考えたらよいですか?

乳がん検診が目指しているのは本当に治療の必要な乳がんをベストなタイミングで見つけることです。
対策型がん検診でも任意型がん検診でも、小さな浸潤がんを見つけることが一番の目標です。浸潤がんからは毎日がん細胞が血管、リンパ管の中に何万個と送り込まれています。早く見つければ見つけるほど病気の進行、転移、再発を起こさなくてすみます。
そういう小さな浸潤がんを見つけて、治癒につながることが検診で得られる最も大きなメリットです。その反面、過剰診断という問題が生じることも事実です。
われわれ医療者は、患者さんの不利益にならないように、過剰診断による過剰な治療が行われないように理解しておく必要があります。
乳がん検診を受ける際には、早期に浸潤がんが見つかり治癒できる利益と、過剰診断という不利益があるということを知っていただいた上で受けていただきたいと思います。もし検診で非浸潤がんと診断され、過剰診断かどうか心配なら、セカンドオピニオンを受けてみてもよいかもしれません。
誤解しないでいただきたいのは、過剰診断のおそれがあるから、乳がん検診を受けなくてよいということでは決してありません。もしも乳がんになったとき、適切な治療を受ければ治癒が望めるように、乳がん検診を受けておくことは、あなたにとって大切なことです。

これまで乳がん検診のメリットばかりを考えていましたが、早期発見早期治療を目指しているからこそ、
デメリットも生じることがわかりました。メリット、デメリット両方を理解し、乳がん検診を受けていきたいですね。

次回は、対策型の検診はなぜマンモグラフィなのか、
超音波検査とはどう違うのかなど、乳がんの画像診断の難しさについて解説していただきます。

次のインタビューへ 第3回 ここが難しい! 乳がんの画像診断は
2018年12月

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