がんになっても安心して暮らせる社会を 〜腫瘍内科医(オンコロジスト)の役割とは 日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授 勝俣 範之先生

  • 第1回 がんと診断された時からが『がんサバイバー』
  • 第2回 腫瘍内科医は患者さんの治療コーディネーター
  • 第3回  抗がん薬治療を続けながら、がんと共存する人を支える
  • 第4回 がんになっても安心して暮らせる社会をめざそう

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第2回公開日:2017年5月12日

腫瘍内科医は患者さんの治療コーディネーター

第1回は、がんサバイバーの定義やがんに対する向き合い方について腫瘍内科医の立場からお話を伺いました。
第2回は、腫瘍内科医の役割について詳しく教えていただくとともに、緩和ケアの大切さについても教えていただきます。

腫瘍内科医の役割とは?

腫瘍内科医は、一言でいうと「がんの総合内科医」です。一般的に 抗がん薬の専門家というイメージが強く、 抗がん薬治療だけをすると思われているかもしれませんが、本当の役割はがんの総合内科医として、患者さんをトータルで診ていくことです。患者さんの治療コーディネーターともいえますね。 抗がん薬だけでなく、それ以外の治療もコーディネートする、患者さんに最も適した治療を考える役割を担っているのが腫瘍内科医と考えていただければと思います。
もちろん病気のことだけでなく、生活面も含めたトータルの意味で、患者さんにとって何が一番良いのかということを一緒に考え、サポートしていくのが腫瘍内科医の役割です。
つまり、「生活の質(Quality of Life;QOL)」を大切に考えるということです。がんと共存できる時代になったからこそ、患者さんの生活の質をどのように改善していけばよいかということをサポートすることが必要で、それを行うのが腫瘍内科医の重要な役割です。そのために、 抗がん薬の治療だけでなく、幅広い役割を担っています()。

勝俣 範之先生

腫瘍内科医は「がんの総合内科医」で、患者さんの生活の質の改善を考え、
抗がん薬だけでなく幅広く治療をコーディネートしてくれるのですね。

  【表】腫瘍内科医のお仕事

緩和ケアも腫瘍内科医の役割でしょうか?

緩和ケア*も腫瘍内科医の大切な役割の一つです。緩和ケアというと、終末期医療と誤解されることがありますが、決してそうではありません。現在は 抗がん薬治療と並行して早期から緩和ケアを始めることのメリットが明らかになっていて、生活の質(QOL)を重視する進行・再発がんの治療では、緩和ケアも治療の一つとして重要な位置づけにあります。
例えば、海外のデータではありますが、早期の緩和ケアの有用性を示す結果が報告されています1)。進行・再発の肺がんの患者さんを「化学療法を行う群と「化学療法+緩和ケア」を行う群に分けて、「化学療法+緩和ケア」の患者さんは再発と診断された時から定期的に緩和ケアの診療も受けました。一方の「化学療法」のみの患者さんは必要な時に緩和ケアの診療を受けました。その結果、「化学療法+緩和ケア」の群のほうがQOLは良好であったことに加え、生存期間も延長することが示されました。
この結果をそのまま日本の乳がんの患者さんにあてはめることはできませんが、再発時早期からの緩和ケアの有用性についても理解していただき、緩和ケアに対する否定的なイメージを払拭したいと思います。

1)Temel JS et al.; N Engl J Med 2010;363(8):733-42

*緩和ケア:がん緩和ケアとは、[がんによる問題に直面している患者とその家族が抱えている身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛を早期に診断し、適切に対応・治療することで生活の質(QOL)を向上させる医療]のことです(WHO[世界保健機関]の定義より)。

緩和ケアのこと、誤解されていた方も少なくないのではないでしょうか?緩和ケアは治療の一つとして重要なんですね。

一人ひとりの患者さんにとってより良い治療とは?

一人ひとりの患者さんによってより良い治療は異なります。それは患者さんによって一人ひとり治療に対する価値観が違うからです。ですから、とくに進行・再発乳がんの患者さんの治療選択を考える際には、必ず「あなたの大切にしたいことは何ですか?」と聞いています。腫瘍内科医は患者さんの治療コーディネーターですから、患者さんの価値観やライフスタイルを聞きだし、もっとも良いと思われる治療を提示します。それには、患者さんと適切なコミュニケーションを図れることが必要です。
エビデンス(科学的根拠)に基づいた医療であるEvidenced-based medicine(EBM)はもちろん重要ですが、患者さんに寄り添うNarrative-based medicine(NBM)も腫瘍内科医にとっては重要な要素です。

Narrative-based medicineとは?

NBMとは対話に基づく医療という意味で、患者さんとの対話を通じて、一人ひとりの患者さんの物語を大切にするということです。
患者さんの社会的背景も、これまでの人生をどう生きてきたのか、これからの人生をどう生きていきたいかまで踏み込んで対話するということです。サイエンスとして医療を支えるのはEBMではありますが、NBMは一人ひとりの患者さんの抱えている不安や問題に対して、心理的、社会的なことも含めてトータルでサポートしていくことです。
早期乳がんの治療では、治癒をめざした治療を行うため、エビデンスに基づいた治療選択が重要になります。一方、進行・再発乳がんの治療では、生存期間の延長といったエビデンスだけではなく、患者さんのQOLの維持・向上が目的となります。そのため、進行・再発乳がんの治療では早期乳がんに比べNBMが重要になります。
医療がそこまで踏み込んでいいのかと言われた時代もありますが、がんと共存できる時代により良い共存をめざすには、NBMも重要です。EBMとNBMは対立するものではなく、補完しあうものといえます。これから、医療者は患者さんと良い対話ができるように、もっとNBMについて学んでいく必要があるでしょう。
腫瘍内科医の役割として重要なところですので、もっと広めていきたいと思っています。

第2回は、腫瘍内科医の役割や、患者さんの生活の質を考えたとき、
エビデンスに基づいた医療だけでなくNarrative-based medicineが重要ということをお話しいただきました。

第3回は、がん薬物療法の専門家として、がん薬物療法の目的や副作用のことなどについて伺います。

次のインタビューへ 第3回  抗がん薬治療を続けながら、がんと共存する人を支える
2018年12月

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