がんになっても安心して暮らせる社会を 〜腫瘍内科医(オンコロジスト)の役割とは 日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授 勝俣 範之先生

  • 第1回 がんと診断された時からが『がんサバイバー』
  • 第2回 腫瘍内科医は患者さんの治療コーディネーター
  • 第3回  抗がん薬治療を続けながら、がんと共存する人を支える
  • 第4回 がんになっても安心して暮らせる社会をめざそう

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第3回公開日:2017年5月26日

 抗がん薬治療を続けながら、がんと共存する人を支える

第2回は、腫瘍内科医の役割や緩和ケアの大切さについてお話を伺いました。
第3回は、がん薬物療法の目的や副作用のことなど、がんとより良い共存を続けるために知っておきたい
大切な知識について、がん薬物療法の専門家として解説していただきます。

初期治療を受けるときに大切なこととは?

初期治療とは、乳がんと診断されてから受ける手術や放射線治療、薬物療法のことを言います。手術の前や手術後に行う薬物療法は、進行・再発乳がんの薬物療法とは目的が少し違います。早期乳がんの薬物療法では、治癒をめざした積極的な治療が中心です。特に理解していただきたいのは、手術後に行う「術後薬物療法」の重要性です。手術によって目に見えるがんは取り除いても、がん細胞は既に血液やリンパの流れにのって身体のどこかに潜んでいる可能性があります。それを微小転移といいますが、放っておくと再発するリスクがあります。そのため、術後薬物療法をしっかり行い、再発を予防することが大切なのです。再発してから薬物療法を始めればいいと思われているとしたら、それは間違いです。手術が終わったところで「治療半ば」と考えていただくとよいと思います。

手術が終わったからといって、乳がんの治療は終わりではなく、
まだ半分しか終わっていませんよということなのですね。

抗がん薬の副作用はつらいイメージがありますが。

われわれ腫瘍内科医はがん薬物療法の専門家として患者さんの負担を軽減すべく、 抗がん薬の副作用対策でも中心的な役割を担っています。 抗がん薬の三大副作用は「悪心・嘔吐」、「骨髄抑制*」、「脱毛」ですが、脱毛以外は「支持療法」と呼ばれる副作用を予防したり軽減したりする薬剤が開発され、今は対処法も確立されてきています。脱毛は残念ながらコントロールが難しく、 抗がん薬治療中はウイッグや帽子、バンダナなどで対処していただくことになりますが、 抗がん薬治療が終われば、概ね生えてきます。
術後薬物療法は全身に広がっているかもしれない目に見えないがん細胞を消滅させることを目的に行うわけですから、有効性が確立された、言い方を変えると確かなエビデンス(科学的根拠)のある治療を行うことが重要です。そのため、むやみに用量を下げたり、休薬したり、途中で止めてしまうことのないように計画された治療を最後までやり切る 、すなわち“Dose intensity(治療強度)”を保つことが大切です。通常、術後化学療法は6ヵ月ですから、その間は患者さんにも頑張っていただきたいです。われわれも副作用をできるだけコントロールできるように努めています。

*骨髄抑制:日々活発に新たな血液の成分を作っている骨髄は、 抗がん薬の影響を受けやすく、投与により、血液の中の白血球や赤血球、血小板などの数が低下することがあります。これを骨髄抑制といいます。

術後薬物療法では、できるだけ治療強度を保つ(計画された用法・用量を保って投与する)ことが大切なのですね。
そのためには支持療法で副作用をコントロールすることも必要ですね。

進行・再発治療を受けるとき大切なこととは?

一方、進行・再発乳がんの薬物療法では治療効果も重要ですが、生活の質(QOL)を保つことが求められます。がんとのより良い共存を続けるために、患者さん一人ひとりの大切にしたいこと、ライフスタイルに合わせた治療を行うことが重要です。乳がんと長く付き合っていく必要があるので、場合によっては 抗がん薬を休むということがあってもいいかもしれません。
例えば、娘さんの結婚式があるとしたら、元気な状態で出席したいですよね。あるいは、子どもの運動会があるとしたら、元気な状態で応援に行きたいですよね。そんな時は自分の大切にしたいことまで犠牲にせずに、その日は 抗がん薬をお休みするというのも生活の質を大切にする治療選択の一つです。そのためには、患者さんから予めライフイベントを聞いておく必要がありますね。
患者さんは治療を優先しないといけないと思いがちですが、大切にしていること、楽しみにしていることは遠慮せずに医師に伝えていただきたいですし、医療者側が積極的に患者さんに聞くことが重要だと思います。

無理をし過ぎず、ライフスタイルに合わせた治療を行うことが、
進行・再発乳がんの治療と長く付き合っていくコツでしょうか。

患者さんと上手にコミュニケーションをとることが大切なのですね。

勝俣 範之先生

大切にしていることは患者さん一人ひとり違いますから、その患者さんの価値観やライフスタイルをしっかり聞くことは、治療の目標を設定するうえでもとても重要です。ですから、第2回でお話しした NBM(Narrative-based medicine)が大切なのです。
われわれは患者さんと対話する時間をできるだけ作り、「不安なことはないですか」、「気になることはないですか」といった声をかけるように心がけています。
患者さんは医師の前にいくと、聞きたいことも忘れてしまう場合があるので、診察室のドアの内側に「聞き忘れていることありませんか?」というメッセージを貼っています(写真)。これは、他の病院の総合内科の外来に貼ってあったのをみて、真似て作ってみました。診察の後になってから思い出すということをよく聞きますが、そういうことがないように、不安なこと聞きたいことは全てお話しして帰って欲しいですね。

勝俣先生の優しい似顔絵で呼びかけられたら、きっと話しやすくなりますね。

抗がん薬の治療中、日常生活ではどのような制限がありますか?仕事は続けられますか?

基本的に乳がんの化学療法は外来治療が中心ですので、副作用がある程度コントロールできていれば、日常生活にとくに制限はないと考えていただいてもよいでしょう。体調が良ければ運動もできますし、生ものを食べても構いません。 抗がん薬治療中は感染症を予防するために、マスクが必要とか外出はできるだけ避けるようにと思われている方も少なくないかもしれませんが、副作用がつらい状況でなければ外出しても問題ありません。主治医に相談のうえで、仕事と治療のスケジュールを工夫すれば働きながらも十分続けられます。がんサバイバーになったからと言って、すぐに仕事を辞めることを考えずに、どのようにしたら仕事が続けられるか、主治医や職場の人と相談してみてください。

第3回は、がん薬物療法を受けるうえで、知っておきたい大切な知識について教えていただきました。

最終回の第4回は、勝俣先生のめざす「がんになっても安心して暮らせる社会」についてお話を伺います。

次のインタビューへ 第4回 がんになっても安心して暮らせる社会をめざそう
2018年12月

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