インプラントの保険適用が実現!乳房再建術は今 昭和大学医学部 乳腺外科 教授/昭和大学病院ブレストセンター長 中村 清吾先生 乳がんに悩む女性にとって心強い味方の中村清吾先生。今回は、中村先生の教授室で「インプラントの保険適用が現実!乳房再建術は今」というテーマで、乳房再建手術や日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会についてお話しを伺いました。

  • 第1回 乳房再建術に朗報!ついにインプラントも保険適用に
  • 第2回 広がる選択肢、乳がん手術と乳房再建術は今
  • 第3回 新たな乳がん治療の取り組み、オンコプラスティックサージャリーとは?
  • 第4回 乳がんと診断されたとき、考えてほしいこと

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第1回公開日:2014年7月31日

乳房再建術に朗報!ついにインプラントも保険適用に

日本の乳がん治療の目ざましい進歩の中で、「チーム医療の導入」、「センチネルリンパ節生検の保険適用」など、
常に大きな課題に取り組み、時代の潮流を創りあげてこられた中村清吾先生。
今回も、長らく待ち望まれていたインプラント(人工乳房)による乳房再建術の保険適用に、大変ご尽力なさいました。
乳房切除術(全摘術)を受けた女性にとって大きな悩みのひとつであった乳房再建にも、明るい光が差してきたようです。
第1回は、2013年待望の保険適用が実現したインプラントによる乳房再建術について、
従来とどんなところが変わったのか、などについてお伺いしました。

まずこれまでの乳房再建術をふり返ってみると、どのような状況だったのでしょうか?

これまで、インプラントによる乳房再建術はすべてが自費であったため、経済的負担は相当なもので、ごくごく限られた方しか受けられない“高嶺の花”でした。
自家組織による乳房再建術は従来から保険適用となっていましたが、技術的に難しく、乳がんの手術を行なっている施設の中でも専門の形成外科医が所属する施設は限られていました。また、手術期間や入院期間が長くかかること、乳房以外の場所に大きな傷あとが残ってしまうことなどから身体的な負担が大きく、実際に再建されるのは乳房切除術をされた患者さんの一部の方に限られていました。
一方、乳房温存療法が、乳房切除術と比べ遜色ない予後が期待できることが証明され、早期発見が進んできたこともあり、乳がんの手術に占める乳房温存術の割合は60%ほどに増加しました(図参照)。この中に適応を超える無理な温存術があったことは否めません。

インプラントの保険適用前は、温存できるか、全摘となるかの二者択一でした。それがインプラントの保険適用により、温存して左右差の少ない乳房が残せるのか、あるいは全摘してきれいな乳房に再建するのか、という選択に変わったわけです。高嶺の花だったものが実現可能な手の届くものになったといえるでしょう。それによって無理な温存が減ることが一番大きなメリットかもしれません。
乳房温存術の割合は60%ほどに増加。

まさに“高嶺の花”だった乳房再建が手の届く実現可能な選択肢として考えられるようになったわけですね。

乳がん患者さんが望む乳房再建、乳腺外科医・形成外科医が目標とするところとは?

温存術、全摘術どちらの手術をしても左右差のない乳房にすることが術後の目標であって、さらに安全に治癒を目指すには、乳がんはきちんと取り除く必要があります。それが温存で可能なのか、全摘をしたほうが安全なのかという判断を乳腺外科医が行います。
患者さんは、やはり美しい乳房の形の回復を望まれますので、乳房の高まりや乳頭、腋のかたちなどが左右対称に形成されること、触感についても柔らかさ、丸み、温かさがあり、できるだけ傷あとが目立たず、痛みがないこと、さらに長期間の安定した状態が保てることが求められ、形成外科医はそれを目指して施術しています。
自家組織とインプラントのどちらの方法でも経済的な条件が同等になった今、技術的な面ではそれぞれ異なるメリット、デメリットがありますので、ご自身の価値観や乳がんの状況と照らし合わせて、患者さんが選択できるようになりました。

実際に乳房再建術を希望される患者さんは、増えていますか?

70,000人を超える乳がんの患者さんのうち、これまで乳房切除術をされる方は40%ほどでしたが、現在は50%に近づきつつあるのではと実感しています。
ラウンド型インプラントが保険適用された2013年7月以降、ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)挿入の手術件数が増加しました。これは既に乳房切除術を受けていた患者さんの中で再建を希望する方が増えたためと考えられます。(2014年1月にはラウンド型に加え、アナトミカル型(しずく型)のインプラントも保険適用になりました。)
今後は、乳腺外科医とともに形成外科医が所属し、インプラントによる乳房再建術の体制を整える施設が増え、同時再建(一次再建)の適用が増えてくると予想されます。さらに、乳頭、乳輪、皮膚を残して、内部の乳腺のみをくり抜くように摘出する「皮下乳腺全摘術」が医学的にも技術的にも可能であれば、「一次一期的再建」の適用が増えてくることも期待されます。
インプラントの保険適用をきっかけに、乳がんの手術や乳房再建術の術式が大きく変わろうとしています。

中村 清吾先生

インプラントの保険適用によって、乳房再建術の裾野が大きく拡がっている、
それだけインパクトの大きなことだったわけですね。

一次一期的再建とはどのような方法ですか? 実施時期によって分類されるそうですが。

乳房再建術は実施する時期により、「一次再建」、「二次再建」に分類されます(図参照)。
一次再建は、乳がんの手術と同時に行う方法で、1回の手術でインプラントを入れる、または自家組織を移植して乳房再建を完成させる方法を「一次一期的再建」といいます。また、乳がんの手術と同時にティッシュ・エキスパンダーを入れて、2回目の手術でインプラントまたは自家組織を入れて乳房を再建する方法を「一次二期的再建」といいます。
一次一期的再建は、乳がんの切除とともに1回の手術ですむので、もっとも身体や費用の負担が少ないのですが、全ての患者さんに適用できるわけではありません。まずは医学的にみて、乳頭、乳輪を残しても安全に乳がんを取り除くことができることが条件になります。
また、リンパ節への転移が懸念され、術後に放射線療法が必要な場合など、乳がんの状況によって同時再建(一次再建)をお勧めできない場合があります。そのような場合には、乳がんの切除とは別の時期に行う二次再建となります。二次再建を選択した場合には、まずは乳がんの治療に専念できますし、再建についてじっくり検討する時間もできます。
インプラントや自家組織などの再建術については手術療法の解説ページの「乳房再建術」の項目をご参照ください。

乳房再建術の分類とそれぞれの特徴

再建の時期
による分類
メリット 再建術の回数
による分類
手術方法 特徴
デメリット
一次再建
(同時再建)

乳がん手術と
同時に行う

  • 乳房喪失感が少ない
  • 入院期間が短く、経済的である
  • 身体的負担が少ない
  • 一次二期再建ではエキスパンダー挿入中に考える時間がある
  • 一次一期再建ではじっくり考える時間が少ない
一次一期再建

乳がん手術と同時に1回の手術で再建を完了する

インプラントによる方法
乳頭乳輪温存乳房切除術を適用できることが条件となる
  • もっとも負担が少ない
  • 乳頭、乳輪が残せない場合は行えない
自家組織移植の方法
皮膚温存乳房切除術を適用できることが条件となる
  • 乳頭、乳輪を切除し、皮膚を残してがんをくり抜くように取り除く方法
  • 乳輪の大きい場合に適用できる
一次二期再建 乳がん手術と同時にエキスパンダーを挿入し、皮膚を拡張後、インプラントと入れ替える
  • 現在、主流となっている術式
  • 再発リスクによっては推奨できない
二次再建

乳がん手術と
別の時期に行う

  • 考える時間が十分にある
  • まずは乳がんの治療に専念できる
  • 乳がん手術と別の施設での再建も可能
二次一期再建 自家組織を移植して乳房再建を完了する
  • 自家組織移植は柔らかく温かい、自然な触感の乳房ができる
  • 手術時間や入院期間が長くかかる
  • 新たな傷あとをつくる
  • 手術が2回以上になる
  • 経済的負担が大きい
二次二期再建 エキスパンダーを挿入し、皮膚を拡張後、インプラントと入れ替える
  • 手術後何年経っても、年齢に関わらず再建できる
  • 手術回数はもっとも多くなる

今や高嶺の花から手の届く選択肢のひとつとなった乳房再建術。
今後は、温存か全摘かの選択ではなく、温存して左右差のない乳房が残せるのか、それとも全摘して再建するのかという選択に変わってくるとのお話でした。
また、すべての方に可能なわけではありませんが、今後はインプラントによる一次一期的再建が増えてくると予想されるそうです。
次回は、広がった選択肢の中から、自分にふさわしい術式をどうやって選んだらよいか?これから乳房再建術を希望する患者さんが知っておくとよいことなどを教えていただきます。

次のインタビューへ 第2回 広がる選択肢、乳がん手術と乳房再建術はいま
2018年12月

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