若年乳がん女性のサバイバーシップ支援とは ~乳腺外科医からのメッセージ 独立行政法人 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長 (現:がん研有明病院 副院長 乳腺センター長) 大野 真司先生

  • 第1回 若年乳がん患者さんが抱える悩みとは?
  • 第2回 みんなに知ってほしい!サバイバーシップ支援とピアサポート
  • 第3回 ひとりじゃない!周囲のみんながあなたをサポートしてくれる
  • 第4回 今、サバイバーシップ支援に求められていること。これからの道のりは?

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第3回公開日:2014年10月31日

ひとりじゃない!周囲のみんながあなたをサポートしてくれる

第2回は、長年にわたり大野先生が続けていらっしゃるハッピーマンマを中心とした啓発と患者さんへの支援活動と、仲間同士が支え合うピアサポートについてお話を伺いました。
第3回は、チーム医療をはじめとして診療の現場で取り組まれてきたことを伺いながら、大野先生の乳腺外科医としての想いを垣間見ることができました。

九州地区で最初にチーム医療を始められたそうですが、きっかけはどのようなことだったのでしょうか?

チーム医療のスタートは、2003年でした。それ以前から看護師との勉強会は行っていましたが、多職種の人たちも交えて行おうということになり、乳がんチーム医療研究会を立ち上げたところでした。一方で、2004年に北九州で開催される日本乳癌学会学術総会のシンポジウムの目玉としてチーム医療を取り上げることになりました。
そこでまず、乳がん診療に関わる院内の各部署に声をかけてみました。すると、予想以上の人数が集まったのはいいけれど、どうしていくか悩みました。とりあえず、各部署の方たちが乳がん患者さんたちとどう関わっているかを話してもらうと、実はお互いに知らなかったことがたくさんあり、様々な部署の関わりの意味を改めて実感しました。それを関係者全員にわかりやすいように、治療経過に合わせて一覧表にまとめたのがはじまりでした。
今では、1人の患者さんの治療方針を決めるのに30人くらいの医療スタッフが関わっています。乳腺科から、病棟へ、そして病院全体へと広がって、様々なスタッフが関わってチーム医療が成り立っています。

1人の患者さんの治療に30人ものスタッフの方が関わっているとは!? 本当に様々なスタッフの方が支えてくださっているのですね。

大野先生の目ざす“チーム医療”のゴールとはどのようなことでしょうか?

大野 真司先生

チーム医療を始めたときに、関連する文献を集めて片っ端から読んでみると、治療の目標(ゴール)は共通して「患者満足のために」、「患者満足度アップのために」と書かれていました。
「チーム医療=(イコール)患者満足」とは、医療者が話し合って治療方針を決めることがゴールではなく、また治療が成功したから満足というわけでもありません。患者さんがその選択に納得できているかどうかが大切なのです。例えば、乳房を温存できれば成功というわけでもなく、乳房切除によって再発の不安が解消し安心する方もたくさんいます。患者満足を得るためには十分な情報を提供し、患者さんが納得できるようによく話し合うことが必要です。そこには医師だけではなく、看護師やソーシャルワーカーなど様々な職種の人が必要となり、そのようにして患者満足を達成することがチーム医療のゴールと考えています。
患者さんの満足のためには医療者だけでは不十分な場合ももちろんあり、だからこそピアサポートが必要になります。若年乳がん患者さんの妊娠・出産に関しても、卵子を凍結保存することもしない選択肢も患者さんが納得して選べることが満足につながり、チーム医療として環境を提供することが大切と考えています。

患者さんが不安なとき、どのように接していらっしゃいますか?

病気になって不安にならない患者さんはいません。しかし、それを乗り越えていくために周囲のサポートがあるかないかは大きな違いです。患者さんが何を不安に感じているのか知るためには、まず話を聴くことから始めないといけません。私自身にはきっかけとなるエピソードがありました。
私は、2000年まで九州大学で食道がんを専門に診療していました。食道がんの患者さんは比較的年配の男性が多く、食道がんの告知をし、手術など治療方針を説明すると、皆さん「はい、わかりました」と納得していただけていました。ところが、九州がんセンターで乳腺科の担当となり、乳がんの患者さんにこれまでと同様に説明したところ直ぐには理解していただけず、「だからさっき説明したように…」と説明を繰り返していました。そこで乳腺外科外来を「だから外来」と自ら名付けていました。
そんな乳腺外科での1年目のある日、いつものように患者さんにひと通り説明した後、「手術はここの日でいいですか?」と尋ねたら、「入院しないといけませんか?」と聞き返されたのです。いつもなら「だから乳がんで手術が必要で・・・」と言うところですが、ふとなぜだろうと思って「どうしてですか?」と尋ねたら、「子どもの卒業式があり、入院の日程と重なってしまうので」という答えが返ってきました。その一言を聞いたとき、私が説明している間、この患者さんはずっとそのことを考えていたのだと気づき、頭を打ちのめされたような想いがしました。患者さんはご自分のことよりも家族のことをずっと考えているのに、それに気づかずに私は一方的に自分のペースで説明していたのです。
また、「がん」という怖い言葉を突然突きつけられると誰もがショックを受け、思考がとまったり動揺したりします。その最中にいろいろと説明しても、理解することはとても無理だと気づきました。それからは「がん」という言葉を使うのを止め、「病気がよくなかった(“Not Good”)」と伝えてから、少し時間をおくようにしました。すると、一方的に話し続けていると見えなかったことが見えるようになりました。黙って患者さんの様子を見ていると不安な表情や表情が変わっていくのがわかるようになりました。そして、意を決したような様子が見えたタイミングで「何か尋ねたいことはありますか?」と質問するようにしました。こちらの説明したいことを話す前にその質問に対してお答えすると、その先はスムーズに進むようになりました。
よく「頭が真っ白になる」と言いますが、「医療者が真っ白にさせているのだ」ということに気づきました。コミュニケーションが欠けていたら患者さんの不安を解消できないのだと実感したのが、2001年3月のことでした。

“頭が真っ白になる”のではなく、“頭を真っ白にしていた”のは医療者だった、ということを乳がん患者さんに気づかされたという大野先生の言葉に、胸を打たれました。大野先生が主治医だったら、どんなにか不安が解消されることでしょう。インタビューをしながら、またひとり心から尊敬できるドクターにお会いできたと実感しました。

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2018年12月

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