若年乳がん女性のサバイバーシップ支援とは ~乳腺外科医からのメッセージ 独立行政法人 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長 (現:がん研有明病院 副院長 乳腺センター長) 大野 真司先生

  • 第1回 若年乳がん患者さんが抱える悩みとは?
  • 第2回 みんなに知ってほしい!サバイバーシップ支援とピアサポート
  • 第3回 ひとりじゃない!周囲のみんながあなたをサポートしてくれる
  • 第4回 今、サバイバーシップ支援に求められていること。これからの道のりは?

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第4回公開日:2014年11月14日

今、サバイバーシップ支援に求められていること。これからの道のりは?

第3回は、乳腺科医としての様々なエピソードの中で、患者さんが“頭が真っ白になる”のではなく、“頭を真っ白にさせていた”のは医療者だった、という衝撃的な言葉を伺いました。
第4回は、ますます求められるサバイバーシップ支援について、今後の目ざすところや、乳腺外科医としての想いをお話しいただきました。

これまでの支援活動の中でとくにどのようなことを実感されましたか?

ネットワーク作りでは点と点がつながって線になり、線と線がつながって面に広がるように活動を広げていくことが必要です。若年乳がんの妊孕性のネットワークも、はじめは院内の産婦人科医あるいは特定の産婦人科医とだけの連携でしたが、福岡市というエリア全体の連携へ、さらには日本全体に拡げることが大切だと実感しています。そのために、医療者が核となり行動を起こしているのですが、がんの体験者にも行動を起こしてもらうことが必要だと考えます。とくに行政を動かすには、医療者ではなく体験者の役割が非常に大きいと感じます。 ハッピーマンマでも、以前は様々なイベントを企画していましたが、今は体験者が活動しやすいように、患者会やピアサポートへの様々な支援に注力しています。

仕事を続けながら治療をするときに、職場の上司や同僚との関係はどうしたらいいでしょう?

昔に比べれば周囲の理解も広がってきましたし、患者さんも話せるようになってきたと思います。我々は、企業向けにも講演しており、会社としてどう対応すべきか考えていただくように投げかけています。

仕事を持ちながらがんの通院治療をしている人 がんの治療のため、仕事をもちながら通院している人は32.5万人いる

現状の仕事が続けられるかどうかは業種によっても異なります。職場転換など柔軟な対応ができる環境が望ましいですが、職種によっては退職して別の職種に就かざるを得ないかもしれません。
現在がんの治療を受けながら働いている人は32万人とも言われており、世間でも就労の問題について注目されてきました。国立がん研究センターが中心となって、各地でハローワークとがん診療拠点病院とで就労コーナーを作る動きが始まっています。福岡でも国立がん研究センターから講師を招いて、がんの体験者に向けた就労の会を開いたりしています。

診療の現場だけでなく、本当に様々な場面で活動していらっしゃるのですね。大野先生の人を動かす力の大きさに感動するばかりです。

パートナーは、よく第二の患者さんといわれますね。

乳がんの術後は、約25%の患者さんがうつ状態になるといわれています。術後は、必ず皆さんショックを受け、多くの方はその後、気持ちを取り直します。概ね1年くらいかかりますし、その間のことはよく覚えていない場合もあります。退院直後よりも、社会に戻ってから、健康な人の中で生活するようになってからの方が気持ちが落ち込んでくるともいわれています。
パートナーの方にも同じような気持ちの変化があり、実は患者さんと同じくらいの割合でうつ状態になるといわれているのです。患者さんが落ち込んでいるときにはパートナーも落ち込んでいますし、子どもも同じです。それが、「家族は第二の患者」といわれる所以です。
したがって、「パートナーも落ち込んでいる」ということを周囲の人が理解することが大切です。パートナー自身も気づいていないかもしれませんが、実は支えてもらうべき立場なのです。啓発活動の中でそういうことを伝えていくことも大切なことだと思っています。

パートナーも子どもも、患者さんと同じようにつらい。それも退院直後より、社会に戻ってからの方が…。だからこそ社会のサポートが必要なのですね。

若い女性に伝えたいこと、今後も啓発していくべきこととは?

40歳未満の女性への自己触診の啓発と、いわゆる乳がん家系の女性には定期的に乳がん検診を受診していただくことが課題です。
マンモグラフィ検診は40歳以上の女性が対象ですから、40歳未満の女性では、早期発見のために、定期的に自己触診をすることがもっとも大切です。今後は遺伝性乳がんのリスクが疑われる方はBRCA1/2遺伝子変異検査を行うようになると予想されますが、そのためにはリスクが疑われた場合の体制作りを早急に進めないといけないと思っています。遺伝性乳がんかどうか不明でも、乳がん発症者の多い家系の女性には自己触診だけでなく、きちんと乳がん検診を受けていただきたいと思います。
乳がんの予防薬はありませんので、まずは健康的な食生活をおくることと自己触診に努めて欲しいと思います。

大野 真司先生

大野先生が目ざす若年乳がんの診療とは?

若年乳がんの患者さんが求めていることを医療者はもっと知り、一歩一歩医療を良くしていくことが大切です。これまでは妊娠・出産に関しても患者さんが何を求めているのか、医療者は情報も持っていない状況でしたが、それを知ることによって、ネットワーク作りやガイドライン作りに発展させることができます。未知の領域ですし、これから臨床研究としてデータを作っていかないと正解はいつまで経っても出てきません。
例えば、卵子を凍結したらどれくらいの割合で実際に妊娠できるのか、今はそういうデータを積み重ねていく段階です。10年後に何人の人が卵子を戻したときに成功したか、成功した人と成功できなかった人は何が違うのか、といった情報を示せることを目ざしています。答えが出るのはまだまだ先のことですが、倫理的な面もきちんと踏まえ、今から将来に繋げていきたいと考えています。

私が乳がんの診療に携わるようになって、食道がんの領域では知らなかった医療、患者さんを軸とした医療を知ったことが、乳腺専門医になって一番良かったことだと思います。
家庭や社会生活で中心的な役割を担う女性は、乳がんになったとき、自分の病気よりも気がかりな事があることを知りました。その不安を周囲のサポートで少しでも軽減することが必要ですし、今後もサバイバーシップ支援の活動を続けていくとともに、社会に向けて啓発していきたいと思っています。

長時間にわたり、様々なエピソードを交えながら幅広い活動についてお話を伺うことができました。九州がんセンターというがん診療拠点病院の診療部長として、日々患者さんの診療に取り組まれている一方、社会に向けてもこんなに多くの活動をされているとは本当に驚くばかりでした。これからも乳がん患者さんのために、大きな目標に向かってまい進されることと思います。大野先生の益々のご活躍を心からお祈りしています。
本当にありがとうございました。

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2018年12月

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