「ご存知ですか? 臨床試験のしくみ」 独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 副院長/乳腺外科部長 髙橋 將人先生 臨床試験は、患者さんのご理解とご協力のもと、薬や治療法の効果や安全性を評価する研究です。将来に向けてより優れた治療法を生み出すため、臨床試験は世界中で日々行われています。北海道におけるがん治療の中心的役割を担う拠点病院において、臨床試験に関して豊富な経験をお持ちの髙橋將人先生にお話を伺いました。

 

  • 第1回 臨床試験はなぜ必要? 私たちが受けている治療と臨床試験の関係
  • 第2回 ガイドラインに掲載される標準治療ができるまで
  • 第3回 臨床試験を支える人々と患者さんを守るための仕組み
  • 第4回 臨床試験への参加を勧められたら? 意思決定をする前に知っておきたいこと

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第1回公開日:2019年5月16日

臨床試験はなぜ必要? 私たちが受けている治療と臨床試験の関係

新薬開発のニュースなどで耳にする「臨床試験」。一見、私たちの生活には関係がなさそうですが、患者さんの協力なくしてできないのが臨床試験です。その言葉のイメージから、「実験台にされてしまうの?」「不利益なことにならない?」などと心配される方も多いかもしれません。第1回は、私たちが普段受けている現在の治療と、臨床試験との関係について伺いました。

臨床試験はなぜ必要なのでしょうか? どんな目的で行われるのでしょうか?

臨床試験の目的は、開発中の新しい薬や、新たに考案された治療が実際にどれくらい効果があるのか、また副作用はどの程度なのかを調べることです。通常の診療は、今、目の前の患者さんにとって、現在ある中で最善の治療をするものですが、臨床試験とは、現在の患者さんに協力していただきながら、未来の治療を作るために行う研究のことを指します。今使われている新薬が承認されたのは、かつて臨床試験に参加してくれた患者さんがいたからなのです。

髙橋 將人先生

私たちが現在受けている治療があるのも、過去に臨床試験に参加してくれた患者さんのおかげなのですね。

臨床試験にはどんな種類があるのでしょうか? “臨床試験”と”治験”の違いは?

臨床現場で人を対象に行われるすべての研究のことを「臨床研究」と言います。その中で、薬や治療法などを評価するため、対象となる患者さんに行うのが「臨床試験」です。臨床試験には、大きく分けて「治験」と「医師・研究者主導臨床試験」があります()。

企業が厚生労働省から薬、医療機器としての承認を得ることを目的として行われるものは「治験」と称され、「医薬品医療機器等法」(薬機法)に従って行われます。一方、「医師・研究者主導臨床試験」は、これまでに厚生労働省で承認された薬や治療法、診断法を用いて、その中から最善の治療法や診断法を確立すること、また、複数の治療法の組み合わせを確立することなどを目的とします。医師が主導して「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って行われます。また、2019年4月以降、一部の臨床試験は、「臨床研究法」という国が定めた新たな法律に従って実施することになります。

臨床試験の中でも、特に企業が医薬品の承認を得るために行うものを「治験」と呼ぶのですね。

臨床試験に参加して不利益なことはありませんか?

「臨床試験に参加したら実験台にされてしまうの?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、そうした心配は要りません。臨床試験とは、参加した人の不利益にならないという倫理性が確実に守られるための厳密なルールの上で実施されているからです。
私たち医療従事者も研究者として、従来の治療と臨床試験で行われる新しい治療の違いを正確に検証しようという姿勢で臨んでいます。研究という側面から、私たちがより注意深く患者さんに向き合うことで、むしろ良い結果に繋がるということも考えられます。ただし、臨床試験での効果や副作用を確実に評価するために、受診や検査のタイミングなど、患者さんに守ってもらわなければならないルールがあり、通常診療に比べて制約が増える場合があります。

標準治療とは何ですか? もっと良い治療法があるのでしょうか?

標準治療とは、専門家が最新情報を集めて有効性と安全性を確認し、現時点で“最善である”と合意の得られた治療法のことです。標準治療は1つだけとは限らず、複数の薬や治療法が示される場合もあります。“標準“という言葉から、「普通のレベル」の治療を連想し、「もっと良い治療法があるのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
最近では、メディアを通して「最先端の治療」「先進医療」といった言葉もよく聞きます。しかし、そうした新しい治療法が、必ずしも最善の治療という訳ではありません。最先端の治療は、実際の診療で使えるかどうかがまだ確認されておらず、研究段階である場合もあるからです。
例えて言えば、標準治療はメインの太い道路で、最先端の治療は横道です。もちろん、最先端の治療と呼ばれるものも、将来的に研究が進めば新たな太い道路になるかもしれませんが、今の段階では、かえって遠回りになってしまう可能性も否定できません。スタートからゴールまで安全に行ける、メインの太い道路(標準治療)がわかっているのであれば、その太い道路を通ったほうが良いというわけです。
今回のテーマである「臨床試験」は、新たな治療法を検証するものですから、その意味では横道を通るということになります。しかし、臨床試験は、患者さんの不利益になる前に太い道路(標準治療)に戻れるようにしっかりと計画されて行われる研究です。

標準治療とは、有効性と安全性が確認され、現在ある中で最善と認められた治療法なのですね。
臨床試験に参加した場合にも標準治療に戻る道筋が決められていることがわかりました。

第2回は、臨床試験の結果が具体的にどのように現在の治療に繋がって行くのかについて伺います。

次のインタビューへ 第2回 ガイドラインに掲載される標準治療ができるまで
2019年5月

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