「ご存知ですか? 臨床試験のしくみ」 独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 副院長/乳腺外科部長 髙橋 將人先生

  • 第1回 臨床試験はなぜ必要? 私たちが受けている治療と臨床試験の関係
  • 第2回 ガイドラインに掲載される標準治療ができるまで
  • 第3回 臨床試験を支える人々と患者さんを守るための仕組み
  • 第4回 臨床試験への参加を勧められたら? 意思決定をする前に知っておきたいこと

<下記内容はインタビュー当時の情報に基づき作成しています>

第2回公開日:2019年5月30日

ガイドラインに掲載される標準治療ができるまで

第2回は、臨床試験の結果が具体的にどのように現在の治療に繋がって行くのか、そして乳がん分野でもよく耳にする「エビデンス」、「標準治療」、「ガイドライン」といった用語の関係について伺います。

エビデンスとは何ですか? 臨床試験の結果がエビデンスになるのでしょうか?

エビデンスとは臨床試験の結果などの科学的根拠を指す言葉で、その薬や治療法が良いといえる証拠や、それを選択する根拠となるデータのことです。
例えば、有効性や副作用の面で、見かけ上ほぼ同等の治療法Aと治療法Bがあるとします。その2つをしっかりと同等の条件でそろえて比較できれば、効果や安全性の違いを正しく確かめることができ、それを参考に新しい治療を作ることができます。臨床試験とは、こうしたエビデンスを1つひとつ確かめていくためのものなのです。
エビデンスの信頼性にはレベルがあります。例えば、複数の医療機関が参加して、多くの患者さんを対象に比較を行う試験結果は信頼性が高いエビデンスと言えます。それに比べ、1例あるいは数例だけの症例報告の結果は信頼性が低いエビデンスとされます。

ガイドラインとは何ですか? どのようなことが書いてあるのでしょうか?

髙橋 將人先生

第1回で述べたように、現時点で最善と考えられる治療法を標準治療と言います。世界中から集めたエビデンスを基に専門家が集まって討議し、その時点で最善であると合意の得られた治療法が標準治療です。
ガイドライン(治療指針)とは、それらの合意事項をまとめたものです。言うなれば、ガイドラインは人類の英知の結晶です。一人の医師がどんなに優秀だとしても、経験できる患者さんの数は限られています。しかし、ガイドラインとは世界中から科学的に検証した非常に多くの患者さんのデータを集めて比較・検証したものですから、そこで示される標準治療は非常に信頼できるものと考えられます。標準治療を外れることが必ずしも悪いわけではありませんが、その場合には、患者さんにできる限り不利益がないよう、慎重な選択をしていかなければなりません。

ガイドラインで示された標準治療とは、信頼できる高いレベルの治療法ということですね。

乳がん治療のガイドラインとは、どのような内容なのですか?

エビデンスの集積により、乳がん治療はこの数年で飛躍的に進歩しています。「乳癌診療ガイドライン」は日本乳癌学会がまとめており、現行の2018年版は、従来版に比べて分析がより詳細になっています。メタアナリシス(複数の研究結果を統合し、より広い見地から分析すること)によって、例えば50歳以上の患者さん、肝臓に転移のある患者さんといった場合など、患者さんの状況別に分析されています。また、治療効果だけではなく、副作用も含めてどの治療法が良いのかという点においても細かく検証されています。これまでのガイドラインは、どちらの治療法が最もメリットがあるのかという視点で書かれていましたが、現行版ではメリットとデメリット双方のバランスを考えて説明されるようになりました。

自分が参加している臨床試験の治療が、未来の標準治療になる可能性もありますか?

臨床試験に参加するということは、新しい治療を受けられる可能性があると同時に、次の世代により良い治療法を届ける役目を果たすこともできるわけです。現に、乳癌診療ガイドラインには、かつて多数の日本の患者さんが参加された臨床試験が掲載されています。もしかしたら、自分の参加している臨床試験がガイドラインに掲載され、その治療が将来的には標準治療として認められるかもしれません。

今、私たちの身近で行われている臨床試験も、次の世代のために重要な成果を残せるかもしれません。

第3回は、臨床試験を支えるスタッフや組織について、さらに患者さんの権利がどのように守られているのかについてご紹介します。

次のインタビューへ 第3回 臨床試験を支える人々と患者さんを守るための仕組み
2019年5月

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