薬物療法の考え方監修:独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター 乳腺科・化学療法科 医長 原文堅先生

  • 乳がんの標準治療とは
  • 薬物療法の種類
  • 乳がんのサブタイプ
公開日:2014年05月30日

乳がんのサブタイプ

乳がんには、比較的おとなしいものから、増殖が活発なものまで、様々なタイプがあり、再発のリスクが異なります。乳がんの初期治療ではそれぞれのタイプに応じて、必要な患者さんに適切な治療を実施し、不要な苦痛を与えないようにするために、世界共通の考え方をもとに効果的な治療法が推奨されています。

世界共通の考え方とはSt. Gallen(ザンクトガレン)のコンセンサス会議で合意された内容に基づく乳がんの初期治療の考え方のことです。乳がんのタイプをホルモン受容体やHER2が陽性か陰性か、がん細胞の増殖能力が高いかどうかによって、5つのサブタイプに分類し()、サブタイプ別にどのような薬物療法が推奨されるのか話し合われて、治療方針が決められています。
それぞれのサブタイプの特徴と推奨される薬物療法について紹介します。

(1)ルミナルAタイプ ホルモン受容体陽性HER2陰性かつ増殖能力が低い (2)ルミナルBタイプ・HER2陰性 ホルモン受容体陽性HER2陰性かつ増殖能力が高い (3)ルミナルBタイプ・HER2陽性 ホルモン受容体陽性HER2陽性タイプ (4)HER2陽性 ホルモン受容体陰性HER2陽性 (5)トリプルネガティブ ホルモン受容体陰性HER2陰性

1 ルミナルAタイプ ホルモン受容体陽性・HER2陰性・増殖能が低いタイプ

ホルモン受容体陽性タイプは総じてLuminal(以下ルミナル)タイプと呼ばれ、乳がん全体の60~70%程度を占めるもっとも多いタイプです。このうち、増殖能力が低いルミナルAタイプは、ホルモン受容体陽性乳がんの典型的なタイプといえます。ホルモン受容体をもつ乳がんは、女性ホルモンをエサとして増殖するため、ホルモン療法が推奨されます。なお、リンパ節転移が4個以上ある場合など、がん細胞の悪性度が高い場合は再発リスクが高くなるため、化学療法の追加が考慮されることもあります。

2 ルミナルBタイプ・HER2陰性 ホルモン受容体陽性・HER2陰性・増殖能が高いタイプ

このタイプは、ルミナルAタイプと同様にホルモン療法が効果的ですが、ルミナルAタイプに比べて増殖能力が高いため、多くの場合ホルモン療法に加えて化学療法も行います。化学療法を実施する場合にどのようなレジメンが良いかについては、ホルモン受容体の程度や、再発のリスクなどを判断して選択します。

3 ルミナルBタイプ・HER2陽性 ホルモン受容体陽性・HER2陽性タイプ

このタイプはホルモン受容体とHER2のどちらも陽性であるため、ホルモン療法抗HER2療法ともに効果が期待できます。また、抗HER2療法を行う場合には、化学療法を併用することが推奨されています。

4 HER2陽性 ホルモン受容体陰性・HER2陽性

ホルモン受容体陰性で(ルミナルタイプではない)HER2陽性の乳がんは、乳がん全体の10%程度を占めます。ホルモン受容体をもたないため、ホルモン療法の効果は期待できません。抗HER2療法化学療法の併用が推奨されています。

5 トリプルネガティブ ホルモン受容体陰性・HER2陰性

トリプルネガティブと呼ばれているサブタイプで、攻撃の標的となるホルモン受容体とHER2タンパクのいずれも持たないタイプです。通常、化学療法を行います。現在、どのようなレジメンがもっとも効果が高く安全に行えるか、様々な研究が実施されています。

St. Gallen(ザンクトガレン)コンセンサスの基本的な考え方とは

St. Gallenコンセンサス会議とは、2年に1回スイスのSt. Gallenで開かれる代表的な乳がんの国際学会です。ここでは、世界中の乳がん診療の専門家が集まり、新たな研究成果や臨床での成績を基に、初期治療としてどのような薬物療法がもっとも適しているか話し合われます。その結果がSt. Gallenの推奨する治療指針として発表され、世界中の乳がん診療に影響を与えています。日本乳癌学会でもSt. Gallenの治療指針を参考にガイドラインの見直しが行われています。
2013年のSt. Gallenコンセンサス会議で推奨されたサブタイプ別の薬物療法はに示す通りです。

サブタイプ別の推奨される薬物療法 ルミナルAタイプ:ホルモン療法単独(リンパ節転移が多い場合など、化学療法が必要なこともあります。) ルミナルBタイプ:ホルモン療法+化学療法(ホルモン療法単独の場合もあります。) ルミナルBタイプ(HER2陽性):化学療法+抗HER2療法+ホルモン療法HER2陽性(ルミナルタイプではない):化学療法+抗HER2療法 トリプルネガティブ:化学療法

乳がんの標準治療とは薬物療法の種類

監修者略歴

独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター 乳腺科・化学療法科 医長 原文堅(はらふみかた)先生

  • 平成11年 3月岡山大学医学部医学科専門課程卒業
  • 平成11年 4月岡山大学医学部第二外科学教室 研修医
  • 平成11年 9月岡山赤十字病院 外科 研修医
  • 平成16年 5月MD アンダーソンがんセンター 
    Department of Molecular Therapeutics 研究員
  • 平成17年 6月岡山大学大学院博士課程(外科学第二専攻) 修了
  • 平成19年 4月岡山大学病院 呼吸器・血液腫瘍内科 医員
  • 平成19年10月独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター
    乳腺科・化学療法科

【資格】
日本乳癌学会 専門医・指導医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医
日本癌治療学会 がん治療認定医
日本外科学会 専門医・認定登録医
マンモグラフィー精度管理委員会 読影資格:A判定

【所属学会】
日本外科学会、日本内科学会、日本乳癌学会
日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会
ASCO(American Society of Clinical Oncology)
ESMO(European Society of Clinical Oncology)

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