ホーム薬剤師によるお薬の解説副作用対策ホルモン療法と分子標的療法の副作用

副作用対策

2014年6月30日 公開
2023年12月 更新
監修:KKR札幌医療センター
薬剤科 薬剤科長/治験管理センター 副センター長
玉木 慎也 先生

ホルモン療法と分子標的療法の副作用

ホルモン療法の副作用

ホルモン療法は、女性ホルモンであるエストロゲンの作用を抑えて、乳がんの増殖を抑制する治療です。本来、エストロゲンは、女性の身体を守るために様々な臓器で大切な働きをしています。しかし、ホルモン療法では、エストロゲンを抑えてしまうため、「更年期症状」のような副作用があらわれることがあります。

主な症状は、ほてりやのぼせなど比較的軽いものが多く、なかには、関節や骨・筋肉の症状などが出ることがあります。また、年齢によって身体の中のエストロゲンの状態が異なり、合併症があるかどうかによっても症状のあらわれ方が変わってきます。

ここでは、ホルモン薬(ホルモン剤)によってあらわれる代表的な副作用を紹介します。この他にも、気になる症状がある場合には、主治医や薬剤師、看護師に相談してください。

ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)

エストロゲンを抑えると、ほてり、のぼせなどの「ホットフラッシュ」があらわれる場合があります。ホットフラッシュは、よくあらわれる更年期症状の一つとして知られていますが、体温調節がうまくできなくなることによって起こる症状です。
ホルモン療法の治療中も顔や首、身体が突然のぼせるように暑くなる、全身あるいは手や足、わきの下などに汗をかきやすくなる、胸から顔にかけて赤くなるなどの症状があらわれることがあります。また、動悸や不安、眠れないなどの症状を伴うこともあります。

対策のポイント

  • カーディガンなど、調節しやすい服装を工夫するとよいでしょう
  • 扇子を持ち歩くのもオススメです
  • 軽い運動などを日常生活に取り入れてみましょう

関節や骨・筋肉の症状

閉経後の女性では既にエストロゲンが低下していますので、体内の骨量が減少しやすく、骨がもろくなり、骨折を起こしやすくなったり、手指やひざなどの関節のこわばり、また、関節の痛み(身体の節々が痛む)などの症状が出てくることがあります。

対策のポイント

  • カルシウムやビタミンD、ビタミンKを多く含む食品を積極的に食事に取り入れましょう
  • 朝、手足がこわばる場合には、起床時に手足を動かすなどして、身体をほぐすとよいでしょう

その他の症状

その他には、下記のような症状があらわれることがあります。

生殖器への影響  
性器出血、膣分泌物の増加、膣の乾燥、膣炎など
血液系への影響  
血液が固まりやすくなり、血栓(血のかたまり)ができやすくなる
心や神経への影響 
頭痛、気分が落ち込む、イライラする、やる気が起きないなど

症状がつらい場合には、お薬を使用することや、また、カウンセリングという方法もありますから、主治医や薬剤師に相談してみましょう。

分子標的療法の副作用

分子標的治療薬はがん細胞のもつ特有の因子を狙って攻撃し、がん細胞の増殖を抑えるお薬です。そのため、従来の抗がん剤であらわれる副作用とは異なる、分子標的治療薬に特有の副作用があらわれることがあります。分子標的治療薬には抗体治療薬と低分子の分子標的治療薬があります。

抗体治療薬に特有の副作用として「インフュージョン・リアクション」とよばれるアレルギーのような症状があります。
また、それぞれの分子標的治療薬が標的とする分子によって、あらわれる症状が異なります。
さまざまな臓器に影響があらわれますが、下記に示す副作用がすべての分子標的治療薬にあてはまるわけではありません。治療を始める方は、事前にどのような副作用が出やすいのか主治医や薬剤師に確認しておくとよいでしょう。

抗体治療薬に特有の副作用

インフュージョン・リアクション(注入に伴う反応)

インフュージョン・リアクションとは主に、投与中あるいは投与から24時間以内にあらわれる抗体治療薬に特有の副作用のことです。詳しい機序はわかっていませんが、従来の抗がん剤とは異なるアレルギー反応が原因と考えられています。多くの場合、初回の点滴中にあらわれますが2回目以降にあらわれることもあります。

主な症状:発熱、頭痛、吐き気、かゆみ、発疹、息が苦しい など

分子標的治療薬の働きによってあらわれ方が異なる副作用

心臓への影響  
少しの運動で息切れがする、心臓がドキドキする、手足がむくむ など
呼吸器への影響 
咳がとまらない、息切れがする、呼吸が苦しい など
消化器への影響 
吐き気、嘔吐、下痢 など
皮膚への影響  
発疹、手足の皮膚炎、皮膚の乾燥、爪や爪の周囲の変化 など

そのほかにも、口内炎、貧血、高血糖、高血圧、タンパク尿、鼻血や歯ぐきからの出血などの副作用があらわれる場合があります。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によって抑えられていた自分自身の免疫細胞を再び活性化させるため、免疫が働きすぎることによる副作用があらわれることがあります。免疫に関連した副作用なので、免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれています。irAEは、皮膚、消化管、肝臓、肺などに比較的多くあらわれますが、腎臓や神経系、筋肉、眼にもまれにあらわれることがあり、全身のどこにでも副作用が起こる可能性があります。
irAEは従来の抗がん剤の副作用とは異なり、免疫を抑制するステロイド薬で対応することがあります。
irAEの多くは治療開始後約2ヵ月以内の比較的早い時期に起こりやすい傾向があります。ただし、投与終了後、数週間から数ヵ月経ってから起こることもあります。そのため、投与終了後もirAEに注意が必要です。

監修者略歴

KKR札幌医療センター
薬剤科 薬剤科長/治験管理センター 副センター長
玉木 慎也(たまき しんや)先生

  • 平成11年 3月富山医科薬科大学(現 富山大学)薬学部 卒業
  • 平成13年 3月同大学大学院 修了
  • 平成13年 4月医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 薬剤部
  • 平成16年 8月国立病院機構北海道がんセンター 薬剤科
  • 平成17年 7月同院 治験管理室 治験コーディネーター
  • 平成19年 10月同院 治験管理室 治験主任
  • 平成21年 4月同院 薬剤科 製剤主任
  • 平成28年 4月同院 治験管理室 治験主任
  • 平成30年 4月同院 薬剤部 病棟業務管理主任
  • 令和2年 4月KKR札幌医療センター 薬剤科 薬剤主任
    治験管理センター 副センター長
  • 令和3年 4月同院 薬剤科 薬剤科長代行
    治験管理センター 副センター長
  • 令和4年 4月同院 薬剤科 薬剤科長
    治験管理センター 副センター長
  • 【所属学会など】
  • 日本医療薬学会
  • 日本臨床腫瘍学会
  • 日本臨床腫瘍薬学会
  • 日本がんサポーティブケア学会
  • 日本乳癌学会
  • 【認定など】
  • 日本薬剤師研修センター認定薬剤師
  • 日本医療薬学会 がん指導薬剤師,がん専門薬剤師
  • 【その他】
  • 日本医療薬学会 代議員
  • 日本臨床腫瘍薬学会 代議員
  • 日本医療薬学会 がん専門薬剤師研修小委員会 委員
  • 日本臨床腫瘍薬学会 臨床研究委員会 委員
  • 札幌病院薬剤師会 常任理事
  • 札幌病院薬剤師会 がん専門薬剤師セミナー運営委員会 委員
  • 北海道薬剤師会 学術・情報委員会委員
  • 札幌薬剤師会 学術研修委員会委員