HOMEエキスパートインタビュー大野 真司先生(2020年)第1回 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)-患者さんが本当に大切にしたいことを見つけるプロセス
エキスパートインタビュー

ここまで進んだACP
(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組み

大野 真司先生

公益財団法人がん研究会 有明病院 副院長/乳腺センター長

大野 真司 先生

病気が進んで治癒が難しくなった時、自分はどのような治療を受けたいのか、何を大切にしたいのか。その時が来た場合に備えて、医療者や家族とともに話し合いを進め、予め共有していく取り組みがACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。近年は、国としてもACPという概念の普及に力を入れるようになりました。乳がん医療の現場において、ACPの普及に早くから取り組んでこられた大野先生にお話を伺います。
(取材日時:2020年3月 取材場所:公益財団法人がん研究会 有明病院)

第1回 公開日:2020年9月18日

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
-患者さんが本当に大切にしたいことを見つけるプロセス

治り難い病気になった時、その後の治療や療養生活について、漠然と考えてみたり、周囲に伝えたりすることは誰にでもあることかもしれません。しかし、それをACPとして行うことで何が違ってくるのでしょうか。

海外の医療機関では既に取り入れられているというACP。第1回は、ACPとは何かということを大野先生に教えていただきます。

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、どのような取り組みなのでしょうか?

将来の症状の経過に備えて、患者さんのさまざまな価値観を尊重しながら、「どのような人生を大切にしているのか」「何を希望しているのか」などを明らかにし、家族や代理決定者、医療者らと共有するプロセスのことです。

自分が治り難い病気、治る見込みが少ない病気になった時−がんであれば再発した場合に、これからどのように治療に取り組んだらよいかということを考えるにあたって、そのゴールは人によっても違いますし、同じ人でもタイミングによって違います。それを周囲の人と一緒に考えながら見つけていく。そうしたプロセスそのものがACPです。

大野 真司先生

ACPが“プロセス”であるとは、どういう意味なのでしょうか?

かつての医療はアウトカム(結果)を重要視していました。もちろんアウトカムも重要なのですが、実はそのアウトカムに至るまでのプロセス(過程)も大切というのが今の医療の考え方です。治ることだけを求めると、治り難い病気の患者さんはアウトカムを達成できないということになってしまいますが、そんなことはありません。治り難い病気になった時にめざすのは、「長生きする」「きつくない治療をする」といったことに変わりますし、治療を始めた時と、1年、2年、3年後では状況も変わってきます。

また、患者さん自身も、自分が本当に望むアウトカムに気づいていなかったりすることがあります。例えば、診察室で病気が進行しているという説明を受けた時とは違って、帰宅してからお子さんの顔を見たり、親と話したり、あるいは仕事しながら考えているうちに、患者さんの思いも変わってくることがあります。それに応じて、患者さんと医療者とが一緒に考えながら取り組んでいくことがプロセスです。

自分は本当に何をしたいのか。答えを出すのは難しいことです。そもそも私たちは今、あと何年生きるという人生の終わりに気づいていませんから、だからこそ強いて何かをやりたいということはないかもしれません。でも、もし残りの人生がどのくらいか想定されれば、それまでに何をしたいかということを考え直してみるのではないでしょうか。ACPとは、そういうプロセスなのだと思います。今日の医療、とりわけACPのキーワードは「プロセス」ではないかと感じています。

なるほど。本当の自分の気持ちにたどりつくには、自分を取り巻くいろいろなものを改めて受け止め直すプロセスが必要ですね。状況は常に変化しますし、それに応じて医療者や専門家と相談しながら考え直していくことも大切です。

患者さんがACPに臨むにあたって、必要なことは何でしょうか?

自分が本当にしたいことを考えるためには、私は4つのものが必要だと思います。

まず1つ目は「場所」。診察室での限られた時間では、深い考えに及ぶには難しいと思います。しかし、家に帰ってみれば考えられるかもしれませんし、あるいは診察室を出て別室であれば看護師とじっくり話し合えるかもしれません。そして、相手が医師から看護師、臨床心理士やソーシャルワーカーなどに替わって話すうちに、はっきりとしてくることもあるでしょう。

ですから、2つ目に大切なものは、「人」ということになります。

3つ目は「もの」です。あなたは何を大切にしていますかと聞かれても、なかなか即答できないものです。しかし、ACPの質問紙には「治療について医師と話し合えていますか」「予後が変わらないのであれば積極的な治療は避けたいですか」といった問いがあります。それに少しずつ答えていくうちに、自分の本当の希望に気づいていくことができます。

そして4つ目は「時間」です。病気が進んでいることを告げられた時は冷静には受け止められませんが、何日間か考えているうちに自分の希望がわかってくることもあるからです。

この「場所」「人」「もの」「時間」は、患者さんによって違いますし、同じ人であってもタイミングによって変わります。1回目の治療の時と4回目の治療の時では、大切なものも変わってきたり、治療へ求めることも変わってきたりするからです。それを患者さんと医療者とが一緒に考えていくプロセスがACPだと思います。

ACPに必要な4つの要素

「場所」「人」「もの」「時間」。この4つとじっくり向き合えれば、自分の本当の思いを見つけていけそうです。決して自分1人で早急に答えを出すことがACPのあり方ではないということがわかりました。

これまでの医療では、ACPのような取り組みはみられませんでした。ACPは日本ではいつ頃から始まったのでしょうか。

先生がACPと出会ったきっかけについて教えてください。

以前勤務していた九州がんセンターでは、2012年からACPが施設全体のプロジェクトになりました。実際にはそれ以前からサイコオンコロジー科の精神腫瘍科医と臨床心理士がACPの取り組みを始めていましたが、その時は私もACPとは何のことだかよくわからなかったのです。しかし、ちょうど2011年に進行乳がんの国際学会であるABC(Advanced Breast Cancer Consensus Conference)がリスボンで初めて開かれ、そこで改めてACPに出会うことになりました。

そこでは進行・再発乳がんの治療に関して世界的なガイドラインを検討するため、30人ほどの専門家がパネリストとして壇上で討議するのですが、その中のテーマの1つにACPがありました。パネリストたちはさまざまな設問にYES/NOで答えていきますが、「患者さんに対して治り難い病気であるかどうか伝えるべきか」「その治療の目標について最初から話し合うべきか」といった問いに対し、パネリスト全員がYESと回答していたのです。これが衝撃でした。当時、私たち日本の医療者は、「再発しました」ということを患者さんに告げていても、「治らない」という言い方は、最初からはしなかったからです。

そこで日本の患者さんはどう考えているのかと思い、帰国して患者さんにその質問を投げかけてみたところ、やはり「治らないことを教えてほしい」という考えが多くを占めていました。詳しく聞いてみると、最初から教えてほしい人、配慮がほしい人とさまざまではありましたが、「医療者が向き合ってくれることが最も重要」と考えていることは多くの患者さんに共通していました。さらにもう1つわかったのが、患者さんが初めて乳がんになった時は、家族も病院へ呼んだりして気を配ってくれる一方で、再発に関しては簡単に告げられてしまう現状があるということでした。そして、それこそが今まさに九州がんセンターで取り組んでいるACPなのだということに気づいたのです。これは1つの施設で行うものではなく、もっと全国的に広げるべきだと考えるようになりました。

患者さん自身もさまざまな情報に触れることができる時代になってきています。“自分の病気をきちんと理解したい”、“自分のことは自分で選択していきたい”という思いの強い人が、多数派になっているのかもしれません。

大野先生はこれまでどのようにACPの普及を進めてこられたのでしょうか?

医師の勉強会のテーマにもしましたし、看護師が300人ほど集まる会で取り上げたり、各学会のセミナーで取り上げたりもしてきました。今では、日本の医療者のほとんどがACPという言葉をご存じだと思います。実際に取り組んでいる方も多いかと思いますが、施設全体のシステムとして行っているところはまだ少ないでしょう。海外を例にとると、アメリカでは2011年の時点で電子カルテにACPという項目がありました。日本ではACPに対する認知が広がってきたものの、システムとして取り組む施設はまだ少ないと思います。

診療の一環としてACPを取り入れることが普及するには、まだまだ時間がかかるかもしれませんね。しかし、医療者が患者さんの希望や価値観をしっかり受け止め、それを治療に反映させるためには、とても有意義な取り組みだと思います。

第2回では、がん研有明病院の乳腺センターで実際に行われているACPの流れについてお話を伺います。

連載一覧

第1回 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)-患者さんが本当に大切にしたいことを見つけるプロセス
第2回 がん研有明病院におけるACPの実際
第3回 乳がん患者さんにACPを実践するために
近日公開予定
第4回 なぜACPが必要か−今後さらに発展するために
近日公開予定