HOMEエキスパートインタビュー大野 真司先生(2020年)第2回 がん研有明病院におけるACPの実際
エキスパートインタビュー

ここまで進んだACP
(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組み

大野 真司先生

公益財団法人がん研究会 有明病院 副院長/乳腺センター長

大野 真司 先生

病気が進んで治癒が難しくなった時、自分はどのような治療を受けたいのか、何を大切にしたいのか。その時が来た場合に備えて、医療者や家族とともに話し合いを進め、予め共有していく取り組みがACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。近年は、国としてもACPという概念の普及に力を入れるようになりました。乳がん医療の現場において、ACPの普及に早くから取り組んでこられた大野先生にお話を伺います。
(取材日時:2020年3月 取材場所:公益財団法人がん研究会 有明病院)

第2回 公開日:2020年10月16日

がん研有明病院におけるACPの実際

がん研有明病院の乳腺センターでは、再発患者さんを対象にACPを外来診療の一環として既に取り入れています。第2回では、どのような形でACPを実践されているのかについて具体的に伺います。

ACPはどのようにスタートされたのでしょうか?

当センターでは2016年にACPの第1回勉強会を行っており、実践するようになってからは3年ほど経過しています。現在のシステムができるまでは、ACPカンファレンスを週1回開いてチームみんなで話し合って知識を深め、質問用紙を作るなどしてきました。質問用紙は、乳がんのACPを先駆けて実践されている鹿児島の相良病院と、九州がんセンターの質問用紙を参考に、当施設用にアレンジして制作しました(図1)。

実際に取り組むのは乳腺内科医と外来看護師で、面談は質問用紙をもとに看護師が行います。本来、看護師の皆さんは日常業務の中でACPのようなことをしているのだと思います。しかし、それがシステム化されていないと時間が余分にかかったり、ゴールに到達できなかったりしますから、これをシステムにすればやりやすいということを、看護師さんたちは実感としてわかっています。

大野 真司先生
図1 がん研有明病院 乳腺センターで
使用されているACP質問用紙

提供:大野 真司 先生

実際にACPを行う手順について教えてください。

ACPの話し合いを始めるのは、患者さんに再発や転移が見つかった時、つまり主治医がバッドニュースを伝えなければならない時です(図2)。外来の診察にACPという枠があるので、まず主治医がその予約を取ることが最初のアクションとなります。そうすると、看護師はその日の診察にACPがあるということがわかります。当日は、医師が診察室で患者さんにACPの質問用紙を渡して説明し、看護師もできるだけ患者さんに付き添います。その後、患者さんは看護師とともに別室に移動し、質問用紙の回答をもとに話し合って、その内容を看護師は医師にフィードバックします(図3)。質問用紙には「治療について医師と話し合えているか」、「日常生活について看護師と話し合えているか」といったことも書いてあるので、まず、そこができているかどうかがスタートと言えます。そのような質問も重要なプロセスなのです。

図2 乳がん患者さんの治療経過の一例

提供:大野 真司 先生

図3 ACP面談の流れ

提供:大野 真司 先生

ACPの質問用紙はどのような場面で役立ちますか?

例えば、乳がんの患者さんでよくあるのは、初めてがんと診断されて治療方針を相談する時にはご家族が同席しても、何年も経って再発した際に、その説明をする時にはご家族はいないというパターンです。治療が終わって元気に過ごしている中でご家族の不安や心配もなくなってくるのは良いことなのですが、再発したとなると、家族に黙って通院する患者さんも少なくありません。そして本当に病状が悪化した時にいよいよ付き添って来られると、「なぜこうなるまで言わなかったのか」と怒るご家族もいます。病院としては何度もご家族を呼ぶようにお願いしているのですが、患者さんには家族に心配をかけたくないなどの思いがあって、それを伝えられないことが多いのです。

しかし、ACPの質問用紙には「治療について家族と一緒に考えて決めたいか」という項目があります。もし「いいえ」に○をつけていたら、看護師は「どうしてご家族に話していないのですか?」「いつ頃話すのですか?」ということを聞くことができます。また、1回だけの回答で終わるのではなく、質問用紙は治療が変わるたびに記していくようにしています。患者さんも治るのが難しいとわかってきて、「きつい治療は受けたくない」という思いに変わることもあるからです。そうした思いについても質問用紙を継続的に活用することが役立ちます。

質問に対するYES/NOがわかるだけでも、患者さんにどのような事情があるのか、どのような迷いがあるのかということを聞きだすきっかけになるということですね。患者さんの思いを質問用紙の形として残し、医療者が共有することが大切であるということがわかりました。

第3回では、乳がん患者さんにACPを実践するために、医療者はどのような意識を持ち、準備を進めていけばよいのかについて伺います。

連載一覧

第1回 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)-患者さんが本当に大切にしたいことを見つけるプロセス
第2回 がん研有明病院におけるACPの実際
第3回 乳がん患者さんにACPを実践するために
近日公開予定
第4回 なぜACPが必要か−今後さらに発展するために
近日公開予定