HOMEエキスパートインタビュー大野 真司先生(2020年)第3回 乳がん患者さんにACPを実践するために
エキスパートインタビュー

ここまで進んだACP
(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組み

大野 真司先生

公益財団法人がん研究会 有明病院 副院長/乳腺センター長

大野 真司 先生

病気が進んで治癒が難しくなった時、自分はどのような治療を受けたいのか、何を大切にしたいのか。その時が来た場合に備えて、医療者や家族とともに話し合いを進め、予め共有していく取り組みがACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。近年は、国としてもACPという概念の普及に力を入れるようになりました。乳がん医療の現場において、ACPの普及に早くから取り組んでこられた大野先生にお話を伺います。
(取材日時:2020年3月 取材場所:公益財団法人がん研究会 有明病院)

第3回 公開日:2020年11月20日

乳がん患者さんにACPを実践するために

第3回では、実際に乳がん患者さんのACPに取り組みたいと考えた時に、どのような意識や準備が必要であるかについて伺います。

ACPは乳がんが再発した時だけに取り組んでいくものなのでしょうか?

ACPとは医療者と患者さんの両者が納得して受けていくものなので、その意味では初診の段階、つまり最初にがんになった時からACPは始まっています。表立って実践する必要はないですが、本当のスタートは既に始まっているということを、医師も看護師も意識しておかなければなりません。というのは、患者さんは再発しないために抗がん剤(抗がん薬)治療を受けているからです。

医療者は、患者さんが初めて乳がんになった時、抗がん剤治療は何のためにするのかということを説明しています。それは、がんが再発したら治癒は難しく、命を落とす場合があるからです。患者さんが抗がん剤治療を受けたということは、インフォームドコンセント(説明と同意)を経ており、患者さん自身が説明に納得して治療を受けたいというプロセスがあったということです。そこには、医療者と患者さんとの信頼関係に基づいたShared decision making(共有意志決定)があったということでもあります。これもずっと先のACPまで繋がっていくものだと思います。

*治療方針などを決める際に、医師が選択肢を提示し、患者さんが医師と話し合いながら選択していくことをShared decision makingという。

乳がんと診断された時から
ACPは始まっています
悔いのないゴールを目指して

がんの治療が始まった時からACPは始まっているという意識は、患者さんにも必要でしょうか?

ACPがプロセスであるということを突き詰めて考えれば、最初に必要となることはがんの早期発見、すなわち社会全体としてはマンモグラフィ検診ということになります。さらにさかのぼると、小学校から行われているがん教育も同様で、これらは実は大きな意味でのACPの一環と言えます。ですから、再発したからといって取り立ててACPが始まるのではなく、そういったがんへの知識がすべてACPへと繋がっていくものだと思います。現実的には誰が再発するかはわかりませんから、がんになった人はすべてACPの対象だということを、医療者と患者さんの双方が意識していくことは大切です。その啓発のためには、初診の患者さん全員にACPを知るためのパンフレットを渡すといったこともよい方法かもしれません。

患者さんの多くが「最初に乳がんになった時よりも、再発した時のショックのほうが大きい」と言うのは、それまでに得てきたがんへの知識があるからです。最初に乳がんになった時は「どうして私が?」というショックがありますが、治るために前向きに頑張ろうと思うことができます。しかし、再発すれば治り難いことを知っていますし、「治療を受けたのになぜ?」という思いも相まって、ショックはより大きくなります。しかも、再発したけれど症状はない、例えば骨に転移しているとは言われても症状はないといった段階でしたら、ゴールは見えず、「何を頑張ればよいのか」という絶望的な気持ちになってしまいます。そこからが、ゴールは何にしようかということを医療者と話し合っていく実践的なプロセスになります。

ACPの話し合いは再発した場合に行うとはいっても、そのような事態は誰でもあり得ることだと考えて、1人ひとりがACPを意識しておく必要があるのですね。未来の自分ためにも、病気について正しい情報を得て、納得して治療を選択していくことが大切ですね。

施設全体でACPを導入したい場合、どのように進めればよいですか?

ACPを施設として行う時は、4つのステップに分けて考えるとよいと思います。第1段階は「勉強」です。医師だけでなく医療スタッフ全員がACPについて勉強しなくてはいけません。第2段階は、スタッフの中でどのメンバーが取り組むのかを決める「プロジェクティング」、第3段階は質問用紙やパンフレットなどの「資料作成」です。そして第4が「実践」です。しかし実践したら課題も見つかるので、その後も常に振り返りを行い、ブラッシュアップしていく必要があります。

ACPはまさにチーム医療であり、仲間を作るところから始まります。仲間でやっていくにはたくさんの壁にぶつかることはありますが、最初にチーム医療を作っていった時と同じように1つずつ問題を解決しながら、システム化していってください。また、組織ではどうしてもスタッフの入れ替えがあるので、誰に替わってもACPができる体制を作っていくことが大切です。

大野 真司先生

ACPの質問用紙を活用するには、どのような点に注目すればよいのでしょうか?

患者さんの中には質問用紙の難しい質問に答えていない方もいて、例えば「わずかでも延命できるのなら治療を受けたいですか」といった問いに回答していないこともあります。ところがこれが重要で、回答していないことについて看護師が「どんな気持ちなのか聞かせていただけますか?」と聞くことができれば、そこから患者さんのいろいろな思いが出てくるわけです。そうする中で、患者さん自身も初めて本当に自分のしたいことや希望があることに気づくことがあります。また、例えば薬剤師が質問用紙を見て「この方は副作用が本当に嫌なのだな」といったことがわかれば、次に薬が処方された時に患者さんと話すきっかけにもなることもあります。このようにACPの質問用紙はさまざまな面で効用があると思います。

質問用紙はチームで共有し、さまざまな観点から検討していくことで、患者さんの納得がいく治療に導くきっかけになるのですね。

第4回では、医療者や患者さんのご家族にとってのACPの必要性、そして、日本におけるACPの今後の展望について伺います。