HOMEエキスパートインタビュー大野 真司先生(2020年)第4回 なぜACPが必要か−今後さらに発展するために
エキスパートインタビュー

ここまで進んだACP
(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組み

大野 真司先生

公益財団法人がん研究会 有明病院 副院長/乳腺センター長

大野 真司 先生

病気が進んで治癒が難しくなった時、自分はどのような治療を受けたいのか、何を大切にしたいのか。その時が来た場合に備えて、医療者や家族とともに話し合いを進め、予め共有していく取り組みがACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。近年は、国としてもACPという概念の普及に力を入れるようになりました。乳がん医療の現場において、ACPの普及に早くから取り組んでこられた大野先生にお話を伺います。
(取材日時:2020年3月 取材場所:公益財団法人がん研究会 有明病院)

第4回 公開日:2020年12月18日

なぜACPが必要か−今後さらに発展するために

第4回では、ACPをシステムとして取り組むことでどのようなメリットがあるのか、ACPが今後さらに発展・普及するための展望について伺います。

ACPをシステム化すると、どのようなメリットをもたらすのでしょうか?

医療者、特に看護師の皆さんは、患者さんが大切にしていることを聞けずに治療していることにはストレスを感じると思います。「この人にとって、このきつい抗がん剤治療は本当に必要なことなのだろうか」と疑問に思っても、忙しい中でそんなことを話し合う時間もなく、もし「本当にこの治療を受けても構わないのですか」と聞けたとしても、患者さんが「はい、がんが小さくなってほしいので」と答えてしまえば、そこで話は終わってしまいます。ましてや単刀直入に「あなたが本当に大切にしているのは何ですか」と聞くこともできませんし、患者さんも即答できないでしょう。しかし、ACPの質問用紙があれば、それに沿ってケアすることができるのです。

ことに再発乳がんの患者さんについてはACPというシステムを導入することで、こうしたジレンマが減ると思います。患者さんは質問用紙に答えながら、自分で自分の道を見つけていく。スタッフはそれを見て、患者さんはこのように思っているのだということがわかる。このようなことを個別に聞いていくのは大変な作業です。でも、ACPを行うことで患者さんは満足感が得られますし、スタッフはやりがいを持つことができます。スタッフはやりがいがないと疲弊してしまいますから、スタッフを守るためにもACPは必要なシステムだと思います。がん医療の現場で本当にやりたい看護、やりたい医療をするにあたって、ACPがあるのとないのとではまったく違うと思います。

大野 真司先生

ACPがあることで、患者さんにとって満足のいくケアが実現でき、スタッフ自身もやりがいを感じるという好循環になるということですね。

患者さんのご家族にとって、ACPとはどんな意味があるのでしょうか?

最近「○○ロス」という言葉が流行っていますが、「母親ロス」のような万が一の事態となってしまった時には、ご家族にも「もっとこうしておけばよかった」という後悔の念がわいてくるものです。こうした遺族ケアのためにも、ACPの途中からであってもご家族の方と話し合うことは重要です。

ご家族の方も、「がんになった」「再発した」というバッドニュースだけを聞かされるのでは、病院へ行きたいとは思いませんよね。本来ならば、ご家族の方は経過が悪くなった時だけ病院について行くのではなく、体調の良い時も一緒に付き添ってきてもらいたいと思います。そこで患者さんが一見元気そうにみえて、診察室で医師から「順調に行っていますよ」と言われたとしても、化学療法室に行って点滴を受けているのをみていれば、ご家族の方も「やはり大変なのだな」と思うこともあるかもしれません。そのように良い時も悪い時も、悲しみもつらさも一緒に共有していくプロセスこそが大切なのだと思います。医療者側も、そうして普段からご家族の方と触れ合っていくことで、やがて悲しみやつらさに対するケアをどのようにしたらよいかということもわかってくると思います。

大野 真司先生

治り難い病気と向き合うことは、誰にとっても決して楽なことではありません。しかし、ACPとして普段から患者さんと思いを共有していければ、ご家族も自分の思いを整理していくことができそうです。

がん研有明病院では、ACPについて今後どのような取り組みを行っていくのでしょうか?

今、ACPを他科にも広げるべく、施設全体のシステムにしようと看護部長以下が考えてくれています。2019年10月に病院全体の第1回勉強会を行ったところ、看護師を中心に薬剤師、臨床心理士などあらゆる職種が興味を持って参加してくれました。看護師は在籍する約700人のうち100人ほどが参加してくれましたので、看護師の皆さんは非常にACPに興味を持っているということを実感しています。今後もロールプレイなどを取り入れて勉強会を行っていく予定です。

ACPを施設のシステムとして導入するためには、どんなことが大切でしょうか?

ACPの大切さを気づいた人だけが頑張ろうとしても、日頃の業務が忙しければそこまで手が回りません。ですから、施設として取り組むのだということは明確に打ち出さないといけないと思います。また、当乳腺センターでは既にACPがシステム化されていますが、それを他科で行う時にはやり方を変える必要もあるかもしれません。例えば乳がんは、治らないとわかった時点から経過によっては5年、10年の時間を過ごすことも可能ですが、膵臓がんでは残された時間は僅かかもしれません。こうした違いに対応したシステムはまだ作られていないので、いずれシステム化されるとよいと思います。そのシステムを作るまでのプロセスも、関係者が課題克服を共に考え合うという意味で、実は組織の中で重要なことだと思います。

今後、ACPが全国的に広がるためにはどうしたらよいのでしょうか?

私自身がACPに取り組んで7年、当乳腺センターで実践を始めて3年以上が経過しました。患者さんやご家族の充足感が得られ、医療者の疲弊を防げるという点で、ACPは有効なシステムであることがわかっています。しかし、より多くの施設が取り組む機運が高まるには、診療報酬点数化されることが必要だと思います。そのエビデンスを創出するため、現在、臨床試験の計画を進めているところです。

これからもACPの実践を見える形にしてシステムとして広げて、データとしてまとめ、検証していくことを続けていかなければなりません。どの施設でもシステムを作り上げるまでは大変かと思いますが、熱意のある人が引っ張っていけば、賛同者も増えていき、システムというものはできていくと思います。

新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に伴うACPの取り組みについて

新型コロナウイルスの感染が広がってから、当院でも来院に伴う感染リスクを恐れて、予約をキャンセルされたり、オンライン診療を希望される患者さんが少なからずいらっしゃいました。われわれ医療従事者が懸念しているのは、患者さんがコロナ感染を恐れるあまりに必要な受診や治療に関する相談を控えてしまうことです。

当院ではCOVID対策本部主導のもと、一層の感染予防・拡大防止策に取り組み、患者さんが今まで以上に安心して受診できる環境を整えています。7月からは健診センターも再開し、通常通りの診療を行っています。新型コロナウイルス関連の理由により、一旦キャンセル扱いとなった予約については、担当診療科の医師が患者さんに連絡をして、再予約についてお知らせしています。

再発患者さんの医療においては、社会における感染拡大のためにご自宅近くの施設への転院を希望されなかったり、在宅訪問看護施設の受入れができなかったりするなど連携に困難が生じることがありました。また、感染拡大によって乳がん患者さんの不安や悩みはますます増えていることが予想されます。

ACP面談も適切なタイミングで実施することが重要です。今こそACPの取り組みが必要な時期かもしれません。これまでと同様に患者さんの不安や悩みに寄り添い、患者さんとともにACPのプロセスを進んでいけるよう、感染予防対策に留意しながらチーム医療として取り組んでいきたいと考えています。

ACPを診療に取り入れることは患者さんにとっても医療者にとってもメリットが大きいということを、たくさんの方に知ってほしいですね。

いずれ患者さんも含めて意識が変わり、ACPを診療の1つのプロセスとして当たり前のものであると認識し始めれば、日本の医療のあり方も大きく変わるかもしれませんね。

大野先生、本当にありがとうございました!