HOMEエキスパートインタビュー清水 千佳子先生(2020年)第1回 AYA世代の人が乳がんになるということ
エキスパートインタビュー

AYA世代の乳がん患者さんを応援する!
20代・30代を生きる女性に寄り添って

清水 千佳子先生

国立国際医療研究センター病院 がん総合診療センター 副センター長

清水 千佳子 先生

「AYA世代」という言葉をご存じでしょうか? AYAとはAdolescent and Young Adult(思春期と若年成人)の略。AYA世代には明確な年齢の定義はなく、国や扱うテーマによって変わりますが、日本では、制度面での支援が手薄な15歳から39歳を中心に「AYA世代」と呼び、その世代特有の悩みや課題に対して、国のがん対策としての取り組みが始まっています。

AYA世代でがんに罹患することは、本人にとっても周囲にとっても大きな衝撃です。就職や結婚といった人生の基盤を築くライフイベントを迎える時期であり、中でも乳がんは妊娠・出産と密接な関わりがあります。若くして乳がんになったからこそ生じる悩みや支援のあり方について、AYA世代の患者さんの診療に熱心に取り組む清水千佳子先生にお話を伺いました。

(取材日時:2019年10月3日(木) 取材場所:国立国際医療研究センター病院)

第1回 公開日:2020年6月26日

AYA世代の人が乳がんになるということ

AYA世代でがんに罹患するということは、それより上の世代でがんに罹患する場合とどのような違いがあるのでしょうか。AYA世代だからこそ生じる悩みや課題について伺いました。

AYA世代とは、何歳から何歳までを指すのでしょうか?

AYA(Adolescent and Young Adult)世代とは国際的に明確な定義があるわけではなく、下は12歳から、上は25歳や29歳などと、国によってさまざまです。日本の場合、小児がんの対策は中学生までを対象としており、40歳以上になれば、がんの療養でも必要となり得る介護保険の適用が始まります。したがって、日本のがん対策としてはそれらの支援が行き届いていない15歳から39歳をAYA世代の目安と考えています。人生において非常に変化に富んだ時期に重なります。

清水 千佳子先生

乳がん患者さん全体のうち、AYA世代の患者さんの割合は? どのようなきっかけで乳がんが見つかるのでしょうか?

2019年現在、日本の乳がん罹患予測数は年間約92,000人※1です。乳がん患者さん全体のうちAYA世代は約5%※2に相当しますから、毎年4,000人余りのAYA世代の方が乳がんに罹患していると考えられます。しかし、AYA世代といっても思春期で乳がんになるという方はほとんどなく、実際に乳がんが見つかるのは20代後半からと言えます。30歳~39歳では、がんの中で乳がんが最も多くなります()。この世代は対策型の検診の対象となっておらず、乳腺症などで日頃から乳房の状態を意識している、あるいは自分で実際に触ってみて発見するなど、何らかの形で自己発見するケースが多いようです。

※1 国立がん研究センター がん情報サービスHP https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html

※2 日本乳癌学会「患者さんのための乳がんガイドライン 2019年版」金原出版 P213 Q61

小児・AYA世代の乳がん罹患率

●罹患率が高いがん種は順に
[全がんに占める割合]

*国際小児がん分類(International Classification of Childhood Cancer)第3版のグループに基づく悪性腫瘍の順位
(ただし「その他の癌」は部位で分類)。がん種間の比較のため、いずれのがん種も悪性の腫瘍のみ。
出典:国立がん研究センター がん情報サービスHP
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html

乳がんの場合、AYA世代の患者さんとは主に20代後半から30代の方であるということですね。人生において非常に変化に富んだ時期に乳がんが見つかるとは、大きな衝撃であることは想像に難くありません。

AYA世代のがん患者さんが抱える悩みやニーズとは?

AYA世代のがん患者さんにはその年齢ならではの悩みがあります()。就労に関しては、外見の変化などで支障が出ると仕事が続けにくいという可能性も出てきますし、一度辞めてしまったら再度就労できるだろうか、という心配もあります。就労の悩みの背景としては経済的な不安も深刻で、まだ収入が安定していない、子育ての費用がかかる、といった事情もあります。

AYA世代よりもさらに上の世代となると、そろそろ人生の終盤を考えるということもあるかもしれませんが、若い時にそれを自分事として考えるということはないでしょう。今まさに未来を描いている最中にがんと診断され、今後の人生を思い描けなくなるという不安に遭遇するということは、その衝撃の質がまったく違うと思います。

AYA世代のがん患者のニーズ
出典:国立がん研究センター がん対策情報センター HP
第8回 がんサバイバーシップオープンセミナー テーマ「若年世代のがん」(2017年2月2日開催)
https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/05survivor/pdf/08OS.pdf

AYA世代でがんに罹患するということは、命の危機であるばかりでなく、思い描いてきた将来が否定されかねない、つらさがあるということですね。

20代後半~30代の乳がん患者さんは、家庭や職場、地域で役割を持っている方も多いのでは。

家族の中でさまざまな役割を担っている世代でもあるので、治療を始めることによってその役割が損なわれることがあり、しかも、その多くは早急に決断を迫られる場合もあります。子育て中の方は、入院中の子どもの預け先に悩みますし、抗がん剤の通院治療に子どもを連れていきたくても、小学生までは感染対策で病院に入れてもらえないといったこともあります。また、親の介護をどうしたらいいのか、誰に代わってもらったらよいのかという問題があるかもしれません。

一方で、遠方にいるご両親に心配をかけたくないために、必要となるギリギリまで伝えないという方もいます。中には、乳がんの手術は開腹手術と比べると命に関わるリスクが低いので、手術が終わってから話す方や、初発時には伝えず、再発してしまってから伝えるという方もいます。病気のことはなるべくご家族と共有していただくようにお願いはしますが、周囲に心配をかけたくないばかりに、自分ひとりで何とか解決しようとする方もあり、そうした調整が難しい場合もあります。

家庭や社会の中でさまざまな役割を果たしているAYA世代。「家族に迷惑をかけたくない」と、時にはひとりで頑張ってしまうこともあるのかもしれません。

AYA世代の闘病には、仕事や育児が一段落した世代とは違った悩みがあることがわかりました。

第2回は、AYA世代の乳がん患者さんにとって重大な選択である妊娠・出産について伺います。

連載一覧

第1回 AYA世代の人が乳がんになるということ
第2回 将来の妊娠・出産を望む際に知っておきたいこと
近日公開予定
第3回 社会で生きるAYA世代に寄り添うー就労とアピアランスケア
近日公開予定
第4回 AYA世代の乳がん患者さんを応援するために
近日公開予定