HOMEエキスパートインタビュー清水 千佳子先生(2020年)第3回 社会で生きるAYA世代に寄り添うー就労とアピアランスケア
エキスパートインタビュー

AYA世代の乳がん患者さんを応援する!
20代・30代を生きる女性に寄り添って

清水 千佳子先生

国立国際医療研究センター病院 がん総合診療センター 副センター長

清水 千佳子 先生

「AYA世代」という言葉をご存じでしょうか? AYAとはAdolescent and Young Adult(思春期と若年成人)の略。AYA世代には明確な年齢の定義はなく、国や扱うテーマによって変わりますが、日本では、制度面での支援が手薄な15歳から39歳を中心に「AYA世代」と呼び、その世代特有の悩みや課題に対して、国のがん対策としての取り組みが始まっています。

AYA世代でがんに罹患することは、本人にとっても周囲にとっても大きな衝撃です。就職や結婚といった人生の基盤を築くライフイベントを迎える時期であり、中でも乳がんは妊娠・出産と密接な関わりがあります。若くして乳がんになったからこそ生じる悩みや支援のあり方について、AYA世代の患者さんの診療に熱心に取り組む清水千佳子先生にお話を伺いました。

(取材日時:2019年10月3日(木) 取材場所:国立国際医療研究センター病院)

第3回 公開日:2020年8月28日

社会で生きるAYA世代に寄り添う
ー就労とアピアランスケア

AYA世代とは、社会人として多くの人と関わりながら人生における基盤を作っていく時期でもあります。年若い乳がん患者さんの就労やアピアランスケアについて、医療機関ではどのように支援しているのかについて伺いました。

AYA世代の乳がん患者さんの就労について、医療機関ではどのように支援していますか?

医療機関では、まず、病気に関する見通しや治療方針の具体的な説明をしっかり行います。そのうえで、患者さんの考えを整理することについては看護師さんがサポートしてくれますし、制度についてはソーシャルワーカーなどの専門家に相談することができます。それでも、最終的に決定するのは患者さんです。あえて言えば、私たち医師ができることとは、すぐに仕事を辞める決断をしないように助言することかもしれません。

すぐに退職することを考えなくてもよいのでしょうか?

清水 千佳子先生

乳がんはその進行期間によらず、診断されたからといって直ちに命に関わる状況になるわけではありません。考える時間はありますので、仕事は続けておくことにして、今すぐ辞職して後悔を招くような結果になることは避けるべきです。特に、診断されてまもなくは病気や治療について理解しなければいけないことがたくさんあります。頭の中が整理しきれていない時には、決断を早まらないほうがよいと思います。

病気のことをひとりで受け止めて治療を続けるのは大変です。誰か助言してくれそうな方がいるとよいかもしれません。職場の上司、あるいは同僚やお友達などの中で、親身になって考えてくれる人を見つけておくとよいでしょう。

確かに、がんと診断されて衝撃を受けている時は正しい判断ができないと思います。社内制度や社会保険制度を見直してからでも、遅くはないですね。

就労について考えるとき、参考になる資料や窓口はありますか?

がん情報サービスのホームページでは「がんと仕事のQ&A」という冊子を公開しています()。

「がんと仕事のQ&A」
がんと仕事のQ&A

出典:国立がん研究センター がん情報サービス HP
https://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/cancer-work/cancer-workW.pdf

また、他の患者さんはどうしているのだろうという疑問もあるでしょうから、民間のがん患者さんの就労相談窓口や、若年の乳がんの会などでお話を聞いてみるのも一つの方法です。ハローワークでもがん患者さんの就労支援を行っています。

治療しながら仕事を続ける場合、職場に対してどのような説明をしたらよいのでしょうか?

乳がん治療中の生活には医学的に配慮が必要な場合もあります。例えば、「骨転移があるので重い物を持つことを避ける」「3週間に1度は抗がん剤の治療のため休まなくてはならない」「治療サイクルの中で体調不良の時期があるので、通常通りに仕事ができない」といった制約があることもあります。これらをどこまで話すかはご自身の問題ですが、あくまでネガティブな言い方にならないよう、情報を正確に説明できるスキルを身につけたほうがよいと思います。

若年成人の方々は、こうした物事を上手く整理して説明できる年齢であると思います。仕事に対する自分の中での位置づけを考え、医療従事者が提供する見通しを基に取り組み方を考えていってください。ただし、進行・再発乳がんでは初発の時に比べると体調のアップダウンが大きくなります。もちろん長く安定する場合もありますが、不確実性は増すので、職場でも周囲の人と上手くやっていく努力は必要かもしれません。

病気だからといってネガティブな表現にならないよう、今の自分に必要なことと将来の見通しをしっかり整理した上で、上手に説明したいですね。

社会で活動するにあたって、抗がん剤の副作用による外見の変化も悩ましい問題です。

抗がん剤の副作用で苦痛に感じるものとして、以前は吐き気や食欲不振・だるさのようなものが上位に挙げられたものでした。しかし、今やそれらを抜いて、脱毛が1位になっています()。これには、抗がん剤治療の支持療法(副作用の予防や症状を軽減するための治療)として吐き気止めの薬が進歩していることも背景にあると考えられます。

脱毛には頭髪だけでなく、まつ毛や眉毛も含まれます。眉毛は書き慣れている人は大きな抵抗はないようですが、まつ毛の場合は目にゴミが入りやすくなるという現実的な不便さもあります。薬によっては爪のトラブルや、むくみなどが出てくることもあります。

治療に伴う身体症状の苦痛TOP20
(疾患・男女別)
治療に伴う身体症状の苦痛TOP20(疾患・男女別)

消化器がん202名, 乳がん175名, 肝胆膵がん69名, 血液がん60名, 肺がん55名, その他77名の患者を対象とした
出典:「臨床で活かす がん患者のアピアランスケア」野澤桂子、藤間勝子編 南山堂, 2017

「アピアランスケア」はなぜ重要なのでしょうか?

「アピアランスケア」という言葉は一般的になりましたが、ウィッグをつけたり、帽子をかぶったりすればいい、というような、単純な身体加工(外見を整えること)を伝授すればよいというわけではありません。患者さんにとっては、外見の変化があることによって、自分と社会との接点、あるいは関係性が変わってしまうのではないだろうかという不安が、苦痛になっていると考えられます。つまり、外見の変化そのものよりも、外見を使った社会活動への不安というものが、治療上の苦痛の中に含まれているということです。医療従事者がアピアランスケアをする意義とは、こうした不安の要素をアセスメントすることにあると考え、野澤桂子先生(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)と一緒に研究しています。

「ウィッグをしていることでがん患者なのではないかと思われるのは嫌だ」「かわいそうと同情されるのは嫌だ」といった気持ちに寄り添い、患者さんの心理的な不安を理解することを重視しています。患者さんも、そのつらさを我慢せず、看護師さんなどの話しやすい医療従事者や、同じ経験を持つピアサポーターなどにまず吐き出してみてください。患者さん自身も、がんの治療を始めるにあたって治療の意義を納得して、やらされている治療ではなく、自ら選んで受けている治療と思って取り組んでいただくことが大切です。

外見の変化によるつらさの根底には、自分と社会との関係性が変わってしまうのではないかという不安があるということですね。その不安に寄り添うことは、AYA世代の患者さんにはとりわけ大切なことのように思います。
第4回は、AYA世代に対する支援の広がりと、周囲のAYA世代の患者さんとの関わり方について伺います。