HOMEエキスパートインタビュー清水 千佳子先生(2020年)第4回 AYA世代の乳がん患者さんを応援するために
エキスパートインタビュー

AYA世代の乳がん患者さんを応援する!
20代・30代を生きる女性に寄り添って

清水 千佳子先生

国立国際医療研究センター病院 がん総合診療センター 副センター長

清水 千佳子 先生

「AYA世代」という言葉をご存じでしょうか? AYAとはAdolescent and Young Adult(思春期と若年成人)の略。AYA世代には明確な年齢の定義はなく、国や扱うテーマによって変わりますが、日本では、制度面での支援が手薄な15歳から39歳を中心に「AYA世代」と呼び、その世代特有の悩みや課題に対して、国のがん対策としての取り組みが始まっています。

AYA世代でがんに罹患することは、本人にとっても周囲にとっても大きな衝撃です。就職や結婚といった人生の基盤を築くライフイベントを迎える時期であり、中でも乳がんは妊娠・出産と密接な関わりがあります。若くして乳がんになったからこそ生じる悩みや支援のあり方について、AYA世代の患者さんの診療に熱心に取り組む清水千佳子先生にお話を伺いました。

(取材日時:2019年10月3日(木) 取材場所:国立国際医療研究センター病院)

第4回 公開日:2020年9月25日

AYA世代の乳がん患者さんを応援するために

AYA世代のがんに関する全国的な研究に携わり、「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」の副理事長を務めていらっしゃる清水先生。現在進んでいる支援の動き、そして周囲にいるAYA世代の患者さんとどのように関わっていくべきなのかについて伺いました。

AYA世代のがん患者さんに対し、どのような支援の取り組みが進んでいるのでしょうか?

乳がん患者さんは30代後半から増えてくるため、私自身は乳腺腫瘍医の立場からAYA世代に関わってきたのですが、この世代のがん患者さんはそもそも人数が少ない上に、たくさんの種類のがん患者さんがいて、診療科が分散しています。そのため、これまではAYA世代のがん患者さんをどのようにサポートしたらよいのかというモデルが確立されていませんでした。例えば、同じ年頃の若い看護師さんなどにとっては、患者さんに接するにあたってどうしてよいかわからないという戸惑いもあるだろうと思います。

そこで、AYA世代のがん患者さんを医療機関でどのように支援できるかというモデル作りを目的として、平成27(2015)年から「AYA世代のがんの実態解明と治療開発のための研究が始まりました。現在ではその成果として、全国各地の先生方に協力していただき、生殖医療を中心とした地域ごとの支援チームのモデル作りが進んでいます。この支援は医療機関だけではなく、地域のリソースを活用した大きなチームで考えていくことを目指しています。

平成30(2018)年には、その研究班が発展した形で「AYAがんの医療とあり方研究会」(以下、AYA研)が発足しました。前身の研究班のリーダーである堀部敬三先生(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター)を理事長に迎え、多科・多職種、また医療従事者以外の方も参加し、従来の学会や研究会とはまた違った形の集いとなっています。がんサバイバーの方も含め、さまざまな経験や考え方を共有して、どのようなあり方がよいのかを話し合うことができます。学術集会としては、2020年3月に2回目の開催を予定しています。

※平成27-29年度厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」
http://www.j-sfp.org/aya/efforts/efforts.html

“AYA研”の今後の展望をお聞かせください。

AYA世代の患者さんは人数が少ない上に、それらの方がずっとAYA世代に留まっているわけではありません。常に新しいAYA世代の方が入ってきますから、その新しい方々のニーズに対応していかなくてはなりません。そうした継続性のあるAYA世代支援ができるような枠組みを、今、みんなで一緒に考えているところです。答えはすぐには見つからないかもしれませんが、その時代に応じて、常に何か新しいものを作っていくような必要があると考えています。

AYA世代のがん患者さんに対し、今では多領域からの支援が進んでいるのですね。AYA世代の人はどんどん入れ替わっていきますから、常に新しいアプローチを考えなくてはいけないということですね。

AYA世代の乳がん患者さんと接するとき、特に心がけていることはありますか?

患者さんがAYA世代だという先入観を持って接すること自体は望ましくないので、ごく普通に、その人自身にアプローチすることを心がけています。患者さんはがんの治療のために来院されますので、治療については医学的な立場から誠心誠意取り組んでいますが、将来にわたって不確実なことはどうしても避けられません。しかし、スタッフはみんな、その悩みにできるだけ寄り添っていきたいと思っています。もちろん、医療以外のあらゆるリソースを紹介することもできる限り行います。

周囲にAYA世代の乳がん患者さんがいたら、どのように接したらよいでしょうか?

ご家族の方であれば、まず病院に一緒に来て、重要な話し合いにはぜひ同席してください。医療従事者からの説明に対しては、一緒に直接聞いていただき、共に悩み、考え、寄り添ってください。今、患者さんが置かれた立場は、いずれ自分もなる立場だと考え、その痛みに寄り添って接していただければと思います。

あるAYA世代のがん患者さんは、「自分はたまたま早くがんになってしまっただけ、と思えるようになった」と話してくれました。そこまでたどり着くにはもちろん相当な葛藤があるはずですが、患者さんご本人が自分の中でいつかはそのような落としどころを見つけていただければと思います。そして、周囲の方も「この人はたまたま、みんなより早めにがんになっただけ。明日は自分の問題になっているかもしれない」という心構えで、患者さんと共に考えていただければと思います。

AYA世代だからといって一括りにせず、一人ひとりの患者さんとして寄り添うことが大切なのですね。いずれ自分も同じ立場になるかもしれないと考えれば、患者さんの気持ちに少し近づけそうな気がします。

AYA世代の乳がん患者を診察する医療スタッフの方へメッセージをお願いします。

若い患者さんをみていると、私たち医療従事者も一緒につらくなるものです。特に、自分自身と同じような若い年齢の場合はなおさらだと思います。でも、そのつらさをひとりで抱えないようにしてください。私も以前、緩和ケアの医師にアドバイスいただいたことがありますが、医療従事者の心のケアも大切なことです。どんな医療従事者も若い人の死は慣れているわけではありませんし、自分が経験してもいないことを経験している患者さんに寄り添うには、大変なエネルギーが必要です。

自分自身が疲れてしまい、バーンアウトしないように、スタッフみんなで一緒に取り組んでいくことが大切です。数少ない若い患者さんに対してどのように関わっていけばよいのかということをひとりで考えると悩んでしまいますので、大勢の人を巻き込んでいってください。“AYA研”など、関心を持って取り組んでいる方々のネットワークに参加して、より良い方法を話し合い、悩みを共有できる場を持ってください。

清水 千佳子先生

医療スタッフも目の前の患者さんを支えたいという気持ちが強いほど、つらくなることがあるのかもしれません。それを乗り越えて患者さんをしっかり支えるためにも、たくさんの人と協力して取り組むことが大切なのですね。

AYA世代の乳がんに対する豊富な診療経験の中で、患者さんの困難を一緒に受け止め、解決の道を探って来られた清水先生。

これからもAYA世代のがんに関心を持ってもらえるよう頑張っていかなくては、と話されていたことが印象的でした。清水先生、ありがとうございました。