埼玉県立がんセンター
「乳腺カウンセリングと多職種カンファレンスで支える乳がん診療」

埼玉県立がんセンター

乳腺腫瘍内科 部長 
井上 賢一 医師(司会進行)

乳腺外科 部長 
松本 広志 医師

乳腺外科 副部長 
戸塚 勝理 医師

病理診断科 副部長 
堀井 理絵 医師

看護部 主査 
清水 美津江 乳がん看護認定看護師

看護部 主査 
横枕 令子 乳がん看護認定看護師

薬剤部 
松坂 和正 薬剤師

埼玉県立がんセンターのがん診療では、患者さん一人ひとりの治療に対するニーズを受け止め、その治療を確実に遂行するために、告知を受けた患者さんに対する「乳腺カウンセリング」や、多職種による術前・術後カンファレンスを取り入れています。初期治療は乳腺外科、再発治療は乳腺腫瘍内科が主に担当しますが、いずれの場合も患者さんの希望と理解を大切にし、多科・多職種が適切なタイミングで連携して患者さんの心身を支えています。さまざまな立場から乳がん診療に取り組む皆さんにお話を伺いました。

(取材日時:2019年5月28日(火) 取材場所:埼玉県立がんセンター)

第1回 公開日:2020年1月16日

乳がんの告知から治療方針の決定までをどのように支えているか

埼玉県立がんセンターでは、乳がんと診断された患者さんに対して「乳腺カウンセリング」を行っています。がんを告知され揺れ動く患者さんの気持ちに寄り添いながら、適切な情報をわかりやすく伝え、患者さんのニーズを聞き取り、その患者さんにとってベストな治療方針が選択できるように支援する場です。カウンセリングを受けた患者さんは、乳がん治療に関する理解が深まり、納得した治療選択が行えるようになります。

乳がんの告知は乳腺外科医から。患者さんのニーズを知らなければ治療へは進めない。

井上先生当施設では、初診の患者さんはまず乳腺外科外来を訪れます。患者さんを診断して治療方針を決定するまでは、主に乳腺外科の医師が関わることになります(図)。

戸塚先生当施設において、乳腺外科は乳がんが疑われる患者さんが最初に訪れる診療科です。その病気が乳がんであるかどうかを診断し、外科治療が必要であれば乳腺外科、薬物治療が主となる場合は乳腺腫瘍内科に紹介します。乳がんの診断と初期治療を決定するのが乳腺外科の役割ですので、患者さんへの告知については最も深く関わることになります。

がんと告知されて動揺されるのは女性に限ったことではなく、誰にとっても当然のことです。経済的な問題や治療方針の決定など、考えなくてはいけないことが次々と出てきます。さらに乳がんの場合は、乳房再建や妊孕性(にんようせい)の問題がありますし、昨今では遺伝の説明も必要になることがあります。ですから、限られた診察時間のなかで患者さんのさまざまな問題やニーズをすべて把握し、患者さんが納得する治療を選択するのは、実は簡単なことではないのです。

*生殖機能がはたらき、妊娠する能力

乳腺カウンセリングの役割~患者さんのニーズを確認し、治療への理解・意思決定を助ける

戸塚先生このような問題を解決するうえで大変役立っているのが、「乳腺カウンセリング」です。

当施設では、がんと診断され、病理組織や転移状況などの精密検査を行っている間に、乳がん看護認定看護師が患者さんに寄り添いながらそれぞれの患者さんの問題やニーズについて聴取してくれています。

患者さんは精密検査の結果が出たタイミングで乳腺外科へ再診に来られるのですが、その時には必要な情報がすでに収集されています。患者さんの治療への希望について、家族背景から経済的な事情まで把握したうえで理解することができますし、担当の清水さん、横枕さんは遺伝の問題についても熱心に取り組まれているので、がんの家族歴についての情報収集も十分にされています。

初期治療の決定において、乳腺カウンセリングは非常に役に立つシステムだと思っています。

松本先生乳腺カウンセリングを受けた患者さんは、手術前の最終外来で説明をする時には、すでに治療への理解がかなり進んでいます。医師も最初からもう一度説明しますが、「それはカウンセリングで聞きましたのでよくわかっています」と答える方が増えています。告知から日にちが経過しているということもありますが、治療への理解が増えたとともに、気持ちのうえでも落ち着いて、安定が得られている印象があります。

乳腺カウンセリングの実際~心の動揺に寄り添いつつ、治療選択のための情報を提供する

清水さん乳がんと告知されたとき、患者さんのお気持ちの根底には「なぜがんになったのか」「これからどうなるのか」といった答えの出ないやりきれない思いと、不確定な将来への不安があります。それらをすぐに解決するのは難しいかもしれません。しかし病気について知らないということから生まれる不安があります。乳がんという病気の正確な情報を得ること、治療についての正しい情報を得ることで、不安の軽減につながることが多いのではないかと思っています。

病気や治療について患者さんが理解することは時として情報過多の現代では逆に難しいことがあります。自分自身の病状が不明確なとき、インターネットの情報は膨大に感じて整理ができず、また患者さんの病状を知らないご家族やご友人のアドバイスが患者さんの不安を増幅させ、病状理解を妨げてしまっている場合もあります。

このような中で看護師は患者さんに対し、時間をかけて医師の説明を補足し理解していただくこと、患者さんには病状を受け止めていただいたうえで良い治療選択ができるような支援をしたいと考えています(図)。

横枕さんまず乳がんがどのような病気であり、どのようなサブタイプ(専門医が解説する乳がん治療 乳がんのサブタイプ へリンク)があるのかなどについて説明し、標準治療の進め方についてひと通りの知識をお伝えします。私たちもカルテの記述や検査結果からおおよその治療の選択肢を説明することはできますが、「最終的に決めるのは先生の診察の時ですよ」とお話しし、患者さん自身の理解を促進することが大きな役割です。日本乳癌学会の「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」もご紹介しています。

清水さん治療に関する情報は告知を受けたばかりの患者さんにとっては負担かもしれません。しかし乳がんを克服するためには、治療前から治療についての全体的なイメージを持ち将来の自分自身の未来像について再構築していくことは重要であると思います。

例えば手術では温存療法や乳房切除術それぞれのメリット・デメリットを理解し、手術によるボディイメージの変化(乳房の形の変化)を受け入れ、患者さんが納得したうえで手術を受けることが重要です。時には再建術という方法が救いになることもありますし、補整具や補整下着の存在を知ることで治療への勇気に繋がることもあります。

また薬物療法では副作用を懸念される方は多いのですが、若い患者さんの場合は今まで患者さんが健康な時には考えたこともなかったと思われる妊娠や出産への影響を早急に考える必要が生まれることもあります。

カウンセリングでは、患者さんが知っておいたほうが良い情報が何なのかを抽出する場でもあると思っています。

患者さんが意思決定するために必要な時間がある

松本先生患者さんが告知を受けてから気持ちのうえで成長し、精神的に立ち直るまでは2週間程度はかかると感じています。実際に治療を始める前に、少なくともそれを含めた期間は必要になりますね。

清水さん乳がんと疑われた場合、乳房検査や組織検査などを行いその検査結果が出て正式に乳がんの診断が出るためには2週間程度かかります。またその後転移の有無の確認や治療を行うにあたっての全身検索が必要となります。この間にカウンセリングの時間をとらせていただいています。現実を受け入れるために必要な時間、提示された治療を納得する、もしくは患者さんの気持ちの中で折りあいをつける時間は必要です。カウンセリングでの情報が大きな回り道をせずに患者さんの治療選択に繋がることを期待しています。

横枕さん当施設では紹介元ですでに乳がんの診断がついてから来られる方が多く、初診から2週間程度経過した時期に介入しているため、ある程度冷静さを取り戻された時期で、意思決定支援には適切なタイミングだと思います。乳腺カウンセリングを受けた方の中では、手術前の最終外来でまだ治療に向き合えない精神状態の方はいないと思いますが、さらにもう一度外来診察が必要な方はいますか?

戸塚先生カウンセリングを受けた方ではほとんどいないと思います。ある程度治療方針の焦点が絞られていて、最終決定のためにもう一度来てもらうことはありますが、漠然とまだ迷っているという方はいません。一方で、カウンセリングも何もかも拒絶してしまっている方もおり、本来はそういう方こそカウンセリングを受けていただきたいと思っています。しかし、それこそ患者さんの意思が大切であって、私たちが強要するわけにはいきませんので、時間がかかることかもしれません。

乳がんになっても仕事をあきらめないで! 迷ったら病院を通して支援を受けられることも

井上先生再発しても仕事を続ける方もいる一方で、乳がんと診断されて初期治療の段階で離職する方も依然として多いのではないでしょうか。がんになったから離職するのではなく、一度踏みとどまってほしいと思います。社会保険の制度も利用してよく考えたうえで、決断してほしいですね。

戸塚先生私も「がんと告知されたから離職する」ということはやめたほうがよいと患者さんに話しています。当施設では相談支援センターが中心となって患者さんの就業支援を行っております。職場の上司と相談したうえで、治療のためにどのくらい休めるのかを確かめてほしいです。辞めてしまって改めて仕事を探すよりも、今の職場で働き続けるほうがメリットもあるかと思います。

次回は、治療中の乳がん患者さんを支える多職種連携についてご紹介します。

2020年1月