埼玉県立がんセンター
「乳腺カウンセリングと多職種カンファレンスで支える乳がん診療」

埼玉県立がんセンター

乳腺腫瘍内科 部長 
井上 賢一 医師(司会進行)

乳腺外科 部長 
松本 広志 医師

乳腺外科 副部長 
戸塚 勝理 医師

病理診断科 副部長 
堀井 理絵 医師

看護部 主査 
清水 美津江 乳がん看護認定看護師

看護部 主査 
横枕 令子 乳がん看護認定看護師

薬剤部 
松坂 和正 薬剤師

埼玉県立がんセンターのがん診療では、患者さん一人ひとりの治療に対するニーズを受け止め、その治療を確実に遂行するために、告知を受けた患者さんに対する「乳腺カウンセリング」や、多職種による術前・術後カンファレンスを取り入れています。初期治療は乳腺外科、再発治療は乳腺腫瘍内科が主に担当しますが、いずれの場合も患者さんの希望と理解を大切にし、多科・多職種が適切なタイミングで連携して患者さんの心身を支えています。さまざまな立場から乳がん診療に取り組む皆さんにお話を伺いました。

(取材日時:2019年5月28日(火) 取材場所:埼玉県立がんセンター)

第2回 公開日:2020年4月27日

術前・術後の治療中の乳がん患者さんを支えるチーム医療

埼玉県立がんセンターでは、外科手術を行う患者さんについて、各科の医師、看護師、検査技師などの多職種が集まり、それぞれの専門分野から多角的な検討を行っています。術前・術後の薬物療法へ進む患者さんに対しては、薬剤師の介入も不可欠です。

術前カンファレンスで重要な画像診断~放射線技師のサポートが診断技術の向上に

松本先生術前カンファレンスでは、診断部門として放射線診断科、生理検査部門も参加しており、放射線技師さんが画像の説明を行っています(図・表)。以前は医師が説明していましたが、当施設の技師さんたちは前向きな方が多く、スタッフの育成にもなると考えられたので、プレゼンテーションを担当してもらうことになりました。技師が最初に画像診断の解説を作り、それを医師が確認する形なのですが、医師の診断のサポートとして役立っています。

治療方針決定に欠かせない病理組織診断の重要性~適切な診断をできるだけ迅速に

井上先生乳がんは、何と言っても病理組織診断と、それによるサブタイプ分類が治療において最も重要です。外科手術から内科的な治療までを決めるうえで、ディレクター的な役割を担っているのは病理医です。

堀井先生がん診療連携拠点病院として数多くの症例数を診断するにあたって声をかけていただき、本年(2019年)4月より勤務しています。これまで通り、正確な診断をできるだけ早く出したいと思っています。ただし迷う場合にはできる限り手をかけて、免疫染色やあらゆる手段を使いたいと考えています。乳がんの中でも、分泌がん、腺様嚢胞がん、結節性筋膜炎といった珍しい病型では、保険適用外ではありますが、遺伝子検査を要することがあります。がんセンターとして、病理学と遺伝学の両面から作った報告書を迅速に、適切に出すことを目指していきたいと思います。

術後カンファレンスでは乳腺外科・乳腺腫瘍内科・病理診断科が連携

松本先生外科医として診断や手術についての判断は任せていただいていますが、乳癌診療ガイドラインを踏まえた薬物治療の選択は、内科の先生の専門分野です。時には治療についての考え方が違う面もあるので、カンファレンスは内科の先生と討論できる良い機会になっています。

井上先生内科医の立場としては、患者さんには「手術も検査の1つです」とお話しして、手術の結果が術後の治療方針を決めると説明しています。術後のカンファレンスでは内科、外科、病理診断科を中心に、レポートだけではわからない患者さんの情報も直接話し合いながら、術後治療を決めています。患者さんによっては、術前治療の病理学的な結果によって、外科と内科のどちらでフォローアップを行うかということも決めます。当施設では治験も行っていますので、カンファレンスの場で対象となりうる患者さんが候補にあがることもあり、参加意思のある患者さんには協力していただいています。

戸塚先生当施設に赴任するまでは、あまり治験に関わることがなかったのですが、乳腺腫瘍内科の先生たちがさまざまな治験をされているのを目の当たりにしてからは、治験とは良い治療を提供する最たるものだと思うようになりました。治験というと、どうしても再発がんが対象となることが多いのですが、現在は新薬が次々と登場し、周術期の患者さんを対象とした治験も行われるようになっています。内科の先生に対象となる患者さんについて提案していただき、また、外科医もそれを見逃さないようにすることは、患者さんにとっても利益になることだと思います。内科・外科がカンファレンスでより密に連絡を取りながら、治験の情報を共有できる体制を作りあげれば、患者さんにより良い治療を提供できると思います。

術前・術後の薬物療法を安心して受けていただくために~薬剤師からのアドバイス

井上先生術前・術後の薬物療法は2泊3日などの短期入院を導入しています。患者さんの副作用への不安を解消するためには、薬物の専門家である薬剤師の介入が不可欠です。

松坂先生患者さんが入院されると、化学療法を始める前日あるいは当日に薬剤師が病室に伺います。患者さんは診察での説明と乳腺カウンセリングを受けていますので、まったく知識がないということはなく、ある程度のイメージをもって薬物治療に臨んでいます。まずはその理解度を確かめるため、今までの説明で印象に残った点や気になった点を伺い、患者さんがどのようなことに関心があるのか、どのようなことを心配されているのかを把握し、それに対して重点的に説明を行います。

服薬指導時は、治療のスケジュールや副作用の起きやすい時期などを1枚にまとめた説明書や薬剤のパンフレット、支持療法薬(副作用の症状を和らげる薬)の説明書をお渡しし、主に副作用の症状や対処法についてお話ししています。予め患者さんから、普段の生活状況や今までの治療歴を確認し、以前に生じた副作用などを伺います。それに基づいて、今回の治療で生じやすいと思われる副作用について重点的に説明し、必要に応じて医師へ追加の支持療法薬の処方提案を行ったり、看護師と情報共有したりします。支持療法薬は患者さんにとって、「副作用に対応できる有効な武器です」とお話しし、自宅でも適切に使うよう説明しています。

乳がん患者さんは、お子さんが小さい方、仕事をされている方も多いです。そのため、感染症対策や曝露対策などの説明はしますが、過剰に注意しすぎて負担とならないよう配慮しています。感染症対策は、手洗い・うがいをしっかり行えば、普段の生活において厳しい制限はありませんし、万が一感染症で発熱した場合にも、抗菌薬や解熱剤の使用などの対処法があることをお話しします。また、小さいお子さんへの抗がん剤の曝露が心配、という方へも、一般的な対処法についてはお話ししますが、過剰な心配をしないよう説明しています。

次回は、治療中の乳がん患者さんを支える多職種連携についてご紹介します。

2020年4月