埼玉県立がんセンター
「乳腺カウンセリングと多職種カンファレンスで支える乳がん診療」

埼玉県立がんセンター

乳腺腫瘍内科 部長 
井上 賢一 医師(司会進行)

乳腺外科 部長
松本 広志 医師

乳腺外科 副部長 
戸塚 勝理 医師

病理診断科 副部長 
堀井 理絵 医師

看護部 主査 
清水 美津江 乳がん看護認定看護師

看護部 主査 
横枕 令子 乳がん看護認定看護師

薬剤部 
松坂 和正 薬剤師

埼玉県立がんセンターのがん診療では、患者さん一人ひとりの治療に対するニーズを受け止め、その治療を確実に遂行するために、告知を受けた患者さんに対する「乳腺カウンセリング」や、多職種による術前・術後カンファレンスを取り入れています。初期治療は乳腺外科、再発治療は乳腺腫瘍内科が主に担当しますが、いずれの場合も患者さんの希望と理解を大切にし、多科・多職種が適切なタイミングで連携して患者さんの心身を支えています。さまざまな立場から乳がん診療に取り組む皆さんにお話を伺いました。

(取材日時:2019年5月28日(火) 取材場所:埼玉県立がんセンター)

第3回 公開日:2020年5月25日

再発後の乳がん患者さんを支え続けるスタッフたち

再発や転移が見つかった患者さんの心のショックを和らげ、普段通りの時間をできるだけ長く過ごせるようにするためには、多職種の連携がより大きな意味を持ちます。担当医は薬物療法の専門家である乳腺腫瘍内科医になり、病気とともに生きる患者さんを支えるための看護相談の場も設けています。

乳腺外科から乳腺腫瘍内科へ移っても患者さんを支える気持ちは一つ

井上先生再発患者さんは、乳腺外科の主治医が担当を続けることが一般的かもしれませんが、当施設では乳腺外科から乳腺腫瘍内科に移ることになっています。

横枕さん再発で乳腺腫瘍内科に移る場合も、患者さんの同意を得て、改めて乳腺カウンセリングの予約を入れてもらいます。患者さんは、再発イコール死と受け止めて非常にショックな状態です。治癒は難しいということを理解して治療に進んでいただくのですが、どう治療と向き合うかということを、その方の心理状態に合わせて段階的に説明し、わかってもらいます。薬は耐性となって効かなくなることもあり、また効かなくなれば次の治療に移るというイメージは最初にしっかり理解していただき、だからこそ、一日一日を大切に生きることを考えてもらいたいのです。こうした再発治療のイメージをしっかり持っていただくことが、私たちの役割です。

患者さんの気持ちは常に揺れ動き、浮き沈みが激しく、今日はだめだと思っても明日は明るくなり、また次の日は沈んでしまったりもします。しかし、それはどんな患者さんでも当たり前のことです。また、患者さんは先生には治してもらいたいと思っていますから、先生から「治らない」という意味の言葉を聞くのはつらいですし、先生方も言いにくいのではないでしょうか。その点では、患者さんは私たち看護師と話している時には、よく「先生には聞けないけど、どうなの?」と言ってくださることも多く、率直に話せる立場なのかもしれません。

清水さん病状の過程で抗がん剤治療が推奨されるときや治療内容が大きく変わるとき、できるだけ看護師もかかわれるようにしています。抗がん剤の副作用の不安は誰でも感じるでしょう。実際は副作用を緩和する対策もずいぶん取られていますし、ほかの患者さんの生活のご様子を説明することで患者さんの抗がん剤治療の不安は軽減されているように思います。治療は治療のメリットがデメリットを上回ると医師が判断したときに推奨されています。そのことがわかるように患者さんにご説明しています。治療の決定は患者さんの意思が何よりも重要であることは言うまでもありません。

井上先生私たち内科医も改めて治療の説明はするのですが、どうしても薬のお話に終始してしまいます。しかし、こうして看護師さんが支えてくれているシステムができたおかげで、スムーズに薬物治療に移行できている実感があります。

再発・転移の患者さんも適切な病理診断と多科連携で支える

堀井先生乳がんでは、バイオマーカー発現が原発巣と再発巣で徐々に変化してサブタイプが変わっていくこともありますし、肺の腫瘤が転移によるものと思っていたら、実は原発肺がんであったなどという例もあるため、世界的なガイドラインでは再発巣に対する生検も行うことが推奨されています。再発巣に対しても積極的に生検していただけるのでしたら、積極的に診断していきます。

井上先生再発後も病理組織検査の重要性は非常に高いですね。例えば、肝生検については消化器内科の先生に依頼していますし、今後も生検組織を慎重に診て治療に取り組めるよう、各科に生検の協力を仰ぎたいと思います。再発乳がんの治療は、転移部位や副作用対策によって他の診療科との連携が必要です。急な依頼に応じてもらうこともあり、がんセンターとしてシームレスな全科連携体制(脳神経外科、整形外科、消化器外科、消化器内科、胸部外科、婦人科、遺伝・予防科、放射線科など)ができていると思っています(図)。

すべての乳がん患者さんを支え続けたい~乳腺看護相談

横枕さん再発治療を開始した患者さんに対しては看護相談という形での支援を行っており、そこでがん性皮膚潰瘍のケアも行っています(図)。まず患部を覆う材料を紹介して実際に使ってみていただき、気に入るようならご自身でインターネットや院外薬局でも買えることをお話ししています。もちろん、自壊部を先生に診てもらいたいということであればすぐに診察を入れたり、皮膚科の先生と連携したり、薬剤については私自身が薬剤師さんに相談して適した軟膏を教えてもらうなど、多職種連携もできています。

*乳がんが進行し、皮膚に転移・再発したがんが表面に現れ、がん性皮膚潰瘍が生じることがあります。さらに進行すると、がん細胞が壊死し、自壊創という、滲出液を伴った潰瘍になります。自壊創は、タンパク質などを含む滲出液や、におい、痛み、出血などの症状を伴うため、患者さんのQOLに大きな影響を与えます。

清水さん乳がんによる皮膚潰瘍のケアについてですが、皮膚潰瘍を持った患者さんは患部の処置や将来の不安などでQOLが大きく低下しがちです。誰にも相談できなかった…などのお言葉をよくお聞きします。こんな時こそ私たち看護師の出番ではないかと思っています。

戸塚先生がん性皮膚潰瘍の治療において、薬の効果がある患者さんにおいては外科的切除も行うことがあります。しかし、切除してもまた自壊してしまうのでは逆にQOLを下げてしまいます。自壊部を除去するメリットのある患者さんはカンファレンスで話し合って決めており、そういう意味でも多職種でカンファレンスを行う意味があると思います。

看取りは看護師によるフォローと緩和ケアとの連携で

井上先生残念ながら治癒が見込めない段階に至った場合、 内科医もその頃には人間関係ができていますので十分な時間を取って説明しますが、もう一度改めて看護相談をお願いしています。

横枕さんやはり最期の話題は避けて通れないので、そこでアドバンスケアプランニング(ACP;患者さんが希望する治療や看取りについて予め計画しておくこと)を行い、患者さんの意向を確認して、先生に伝える役割があります。患者さんには、最後の入院はできるだけ短いほうがいいとお話しします。最後に入院しても、残念ながら食べられるようにも歩けるようにもならないからです。病室の白い天井を見上げているよりは、できるだけ住み慣れたご自宅で、ご家族の声を聞き、触れ合いながら過ごしていただきたいのです。

しかし、やがてご家族の方から「食べられなくなった」といった電話が入るようになります。そこは、「食べられないということです。歩けなくなったということです」というお答えをするしかありません。ご家族もわかっていたこととはいえ、やはり怒りのようなものが湧いてきたりもしますが、丁寧に説明することで、「わかりました、もう少し家で頑張ります」とおっしゃってくださいます。

井上先生当施設には PCU(緩和ケアユニット)というチームがあり、緩和ケアは入院してからPCUの専門家にお願いすることになっていますが、状況によって緩和ケア科に転科することもできます。また、非常に悪い状態ではなくても、積極的な治療を選択しないという方もいますので、そうした場合も患者さんの希望に応じて、なるべく早く緩和ケアと連携しています。

各職種のみなさんから患者さんへのメッセージ

清水さん(看護師)乳がんの治療は日々進歩していることを実感します。患者さんがその恩恵を最大限に受けられるように、また患者さんの不安が少しでも軽減され、安全安楽に治療が受けられるように努めています。乳がんに罹患してしまったことは大変お辛いことですが、病気が克服できますよう精いっぱい応援させていただきたいと思います。

横枕さん(看護師)がん性皮膚潰瘍の患者さんが、今はこの薬が効いても、そのうち効かなくなって再び潰瘍が悪化する、という繰り返しに耐えながら生きているのは、想像以上につらく大変なことです。できれば皮膚潰瘍が起こらず最期を迎えられるような乳がん治療になることを願っていますが、こうした患者さんたちの苦痛や、そのような状況に向き合っておられる努力を看護師として常に忘れないでいたいと思います。

松坂先生(薬剤師)薬剤師は医師や看護師とはまた違った視点から患者さんに関わることができます。例えば、薬を飲むのが負担になってきたという方は、薬剤師から医師へ、飲む回数を減らすことができる薬を提案したり、飲みやすい剤型(錠剤、シロップ剤、粉薬など)への変更を提案したりできますので、お気軽にご相談ください。

今後は入院中の患者さんだけでなく、外来の患者さんへも積極的に関わっていくことが目標です。現在、院外薬局と薬薬連携(病院薬局と地域の調剤薬局との連携)を積極的に進めており、定期的な勉強会などで情報交換をしています。このように、薬剤師がより長いスパンで患者さんに関われるようにしていくことを目指しています。

松本先生(乳腺外科)治療の過程ではよりどころや何かに支えてもらう面も必要です。患者さんの個性を尊重し支えるとともに、適切な選択ができるように努めたいと思っております。

戸塚先生(乳腺外科)乳がんだけではなく、がんと診断された方は、その後さまざまな問題に直面されます。われわれ医師だけでそれに対応することは困難です。多職種の者が連携してそうした問題に取り組むことが、患者さんに安心して治療していただくうえで非常に重要であると考えます。これと同じくらいかそれ以上に大切なものはご家族の協力だと思います。われわれ医療者以上に患者さんに寄り添えるのはご家族の方だと考えるからです。どうかあきらめないで、患者さんとともにがんと向き合っていただきたいです。

堀井先生(病理診断科)「病理診断」とは、患者さんのからだから採取された組織や細胞を顕微鏡で観察し、病変の有無や種類・状態について判断することです。病理診断から得られる情報は、患者さんが治療法を選択する際に役立ちます。病理医は、患者さんにお会いする機会は少ないですが、適切な診断を提供することで、顕微鏡越しに患者さんを応援しています。

井上先生(乳腺腫瘍内科)多職種が検討を重ねていくうちに、顔が見える関係になってきました。これからも、乳がんのカンファレンスだけでなく、他のがんと一緒に行う骨転移や遺伝のカンファレンスとも協働しながら、さまざまな乳がんの診療に携わっていきます。多職種が各方面からさまざまなことを吸収して、患者さんのために反映していきたいと思います。

2020年5月