発展する乳房再建術
ー乳腺外科医と形成外科医の連携:東北公済病院の事例ー

国家公務員共済組合連合会 東北公済病院

乳腺外科 診療部長/乳腺治療・再建センター センター長
平川 久 先生

形成外科 部長/乳腺治療・再建センター 副センター長
武田 睦 先生

乳腺外科 部長
甘利 正和 先生

乳腺治療・再建センター 主任看護師
佐藤 有紀 さん

外科外来 主任看護師
濱名 京子 さん

形成外科 外来看護師
谷津 裕子 さん

東北地方で初めて乳房再建専門外来を立ち上げ、乳房再建の牽引役となっている東北公済病院。
乳がん手術を受ける患者さんにとって、乳腺外科・形成外科の垣根を越えて、自然な流れの中で乳
房再建術を受けられる診療体制が特色です。病気を乗り越え、乳房再建という新しい一歩を踏み出
す患者さんを、両科の医師・看護師が連携して支えています。

(取材日時:2019年3月5日(火) 取材場所:東北公済病院)

第3回 公開日:2020年2月28日

乳房再建患者さんの心身に寄り添うケアとは

第3回は、印象に残る患者さんとのエピソードを交えながら、患者さんのこころの拠りどころである“再建さろん ぷらす”についてご紹介いただくとともに、乳腺治療・再建センターの将来についてお話を伺いました。

“再建さろん ぷらす”で気持ちをプラスに! 患者さんの情報共有の場を毎月開催

谷津さん患者さんが一人で悩んで孤立することのないよう、再建予定者、再建経験者の両方が集まるサロン「再建さろん ぷらす」(コラム)を開催しています。これは患者さん主体の自由な情報共有の場であり、少ない日でも7、8人の参加者がいます。看護師がファシリテーター(調整役)として同席させていただいています。

コラム
「再建さろん ぷらす」の概要
  • 毎月1回、第3月曜日に開催。(第1回は2015年1月。2019年3月時点で41回目)
  • 参加者は40~50代が中心。乳腺外科と形成外科の外来日に合わせた開催なので、乳房再建予定者・経験者の両方が参加できる。
  • 開設までの経緯:乳房再建に関する情報や経験談の不足により、再建への意思決定や再建材料の選択について、悩みや迷いの声が多く聞かれた。その不安を軽減するため、患者さん同士の語らいの場を作る目的として開設
命名の由来は・・・プラスチックサージャリ-(plastic surgery:形成外科)と気分が+(プラス)に向くという2つの意味が込められている。

再建を予定しているために経験者の声を聞きたいという方が多いのですが、再建が完了した方はどうしても来院の機会が減ってしまいます。しかし、「経験談が必要であればいつでも呼んでください」と快く協力してくださる方もいて、非常に助かっています。入院中の患者さんも、パジャマ姿のまま参加してくださいます。

佐藤さん再建しようかどうか迷っている方、エキスパンダーが入っていて今後の再建方法を決めかねている方から、サロンに参加し体験談を聞いて再建方法を迷っていたけど決めることができた、励まされたという感想をいただいています(コラム)。

コラム
『再建さろん ぷらす』に参加した患者さんの感想
  • 再建に対する悩み、特に再建材料の選択について不安が軽減された。
  • 同じような悩みを言い合って、自分は一人ではないと感じた。
  • 不安が解消されたことが大きかった。
  • 自分の経験を話すことによって参考になれば、話してあげたい。
  • 他の人のいろいろな思いを聞けて安心し、前向きになれた。
  • 仲間ができて、情報交換できるようになった。
印象に残る患者さん-サロンに参加して再建に踏み切ったAさん-

夫とともに医師から再建の説明を聞いたAさん。不安がないかどうか尋ねると、表情が硬く、「どうしたらよいかわからない」と話し、孤立感がみられた。サロンへの参加を勧めたところ、何度か参加してくれた。感想を聞きながら支援を継続するうち、インプラントによる再建術を選択。術後の外来では「きれいな乳房ができ、満足している。サロンへの参加を勧められ、支援が受けられなかったら再建しなかったかもしれない」と話した。

乳房再建は年齢にかかわらず、患者さんの生活や将来への希望を与えてくれるきっかけに

佐藤さん嬉しかったのは、小さいお子さんのいる方が、水着を着て海やプールに行ったことを笑顔で報告しに来てくれたことです。エキスパンダー留置の手術のために何日も家を空けることに対して母親として、うしろめたい気持ちがあったり、痛みも我慢しなくてはならなかったけれど、子どもと一緒に、しかも水着を着て出かけられたことが嬉しくて再建して良かったと話してくれました。また、お子さんとお風呂に入りたいというお話はよく聞くのですが、高齢の方でも「孫とお風呂に入りたい」「友人と温泉に行きたい」といった思いで再建を希望される方もいます。乳房再建は年齢の問題ではなくて、その人の生活や将来への希望となるものだと思いました。

濱名さん患者さんは再建を希望しなくても、ご主人が希望しているという場合もあります。再建の意思決定には、ご家族の意見を吸い上げるということも、とても大切だと思います。

谷津さん再建を終えた患者さんが外来受診をされた時に、ご自分の乳房再建記録を見せてくださり、「自分が頑張った記録だから大切にとっておく。もし自分が死んだ時には棺に入れてもらいたい」と話してくれました。もともと感染予防のために作った冊子ですが、このような形で役に立って本当に良かったと、熱い思いがこみあげてきました。これからも看護師として、同じ女性として患者さんに寄り添っていきたいと思います。

乳腺治療・再建センターの将来像

よりきれいな乳房形成を目指して

濱名さん温泉に入る時に、手術していない側の乳房は隠して、再建してきれいになった乳房は隠さなかったという患者さんがいます。先日、その手術していない側の乳房にもがんが見つかり、切除して再建することになったのですが、「これで両方ともきれいな乳房になる」と、気落ちするどころか喜んでいるようにも見えて、びっくりしました。

平川先生すでに片側を再建されている方で、反対側の乳がんでもう一方の乳房も手術しなければならない場合、温存できるのであれば、以前ならば100%の患者さんが温存を希望していました。しかし、現在は温存できる患者さんでも、切除して再建を希望される方が多くなりました。再発リスクを考えれば治療上もそのほうが望ましいですね。

佐藤さん「温泉で見せたい」というのは、再建した乳房に満足している証拠だと思います。再建術を受けた方は、手術後に胸を見て「こんなにきれいな胸になった」と驚かれます。

平川先生今後は、温存手術を受けた方についてもきれいな乳房を目指せればいいですね。部分切除で感染などのトラブルによって変形がある方が、お風呂でお孫さんから「おばあちゃんは、どうしてこうなっているの」と聞かれ、再建を希望されたことがあります。温存手術についても、もともとの乳房の形に戻すなり、形成外科的なさまざまな手技を駆使するなどして、満足していただける治療を目指したいと思います。

続発性四肢リンパ浮腫へのケアも継続して行えるように

甘利先生乳がん術後に現れるトラブルには、患側上肢リンパ浮腫があります。乳がんや子宮がん手術後に続発する四肢リンパ浮腫は、潜在患者数がわが国では10万人とも言われています。当院でもリンパ浮腫外来を設け、リンパドレナージ*1などの理学療法にも力を入れているので、続けてご相談いただきたいです。

*1 リンパドレナージ:乳がんの手術で乳房や脇の下のリンパ節を切除した場合に、リンパ浮腫や手術跡の恒常的な痛みなどが起こることがあります。リンパ浮腫とは、リンパ節を切除したためにリンパ液が溜まって、腕が腫れた状態になることです。リンパドレナージは、リンパ浮腫に対する複合的理学療法の一つで、リンパ浮腫の治療のためにリンパ液の流れを改善する医療的マッサージ法です。

武田先生より重度の四肢リンパ浮腫に対しては、マイクロサージャリー*2によるリンパ管静脈吻合術が有効と言われていますので、これについては形成外科からもアプローチしていきたいと思います。

*2 マイクロサージャリー:マイクロ(微小)+サージャリー(外科)、すなわち微小外科のことです。通常の手術は肉眼で行いますが、肉眼では見えにくい細い血管やリンパ管や神経などをつなぎ合わせる必要がある場合に、手術用顕微鏡を用いて微細な手術を行う技術です。

平川先生乳房再建もそうですが、乳腺外科の役割とは別の部分で、形成外科が患者さんの心身を癒やしてくれるということかもしれませんね。こうした連携によって、患者さんの治療がうまくいくとともに、病院全体の診療の質も高まるのではないかと期待しています。

2020年2月