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乳がん患者さんの妊娠・出産の
希望を支える地域ネットワーク

那覇西クリニック 理事長 
玉城 研太朗 先生

 那覇西クリニックは患者さんのニーズにあった医療を目指し、乳がんの検診、手術、外来化学療法を提供する専門施設として地域の患者さんを支えています。沖縄県内には乳がん患者さんの妊娠・出産を地域医療機関が連携して支える「沖縄県妊娠期がん診療ネットワーク協議会」があり、同クリニックはその事務局も担っています。今回は、協議会発足の中心的役割を担われた理事長の玉城研太朗先生にお話を伺いました。

取材日:2022年4月18日
公開日:2022年8月26日
更新:2023年10月

若年性乳がんと妊娠・出産

 AYA世代(一般的には15~39歳)1)の若年性乳がん患者さんは、仕事や結婚といった人生設計をこれからたてていく年齢にある場合が多いです。そのため病気以外にも将来への不安をはじめとする大きな精神的負担が生じることに注意を払う必要があり、若年性乳がん患者さんの治療における心理的サポートは極めて重要です。
 まず、医師はエビデンスに基づいた治療のデータを患者さんに示し、乳がんはしっかり治療すれば治り得ることを伝えて患者さんをサポートします。その後、がんの治療方針を決める時に、患者さんの将来の妊娠・出産に関する希望や不安を伺いながら、個々の患者さんの状況に応じた対応を検討していきます。その際には医師や看護師など多職種のスタッフが連携し、チーム医療で患者さんを支えながら話し合いを重ねることが重要です。

治療後の妊娠に向けた患者さん自身の選択と医療的サポート

 乳がんの治療が終われば妊娠は可能です。ただし、抗がん薬による卵巣機能低下や長期ホルモン療法の結果、妊娠が困難になる可能性があります。そのため妊孕性(妊娠できる力)の温存を考える必要があり、受精卵や卵子の凍結保存、ホルモン療法の期間などについて患者さん自身が選択をするケースがあります。
 がんのタイプにもよりますが、受精卵や卵子の凍結保存は治療開始が遅れないよう可能な限り早く行うのが理想的です。沖縄県では妊孕性に対する取り組みとして、2016年に琉球大学病院産婦人科を中心とする「沖縄がんと生殖医療ネットワーク」が発足し、がん治療施設と生殖医療施設が連携することで卵子採取をスムーズに実施できる体制を整えました。
 ホルモン療法の治療期間は10年間が推奨されていますが2)、患者さんが妊娠・出産のために治療中断を希望するケースもあります。患者さんの希望や選択は尊重されるべきですので、そのようなケースでは治療を中断した場合のリスクについて、リアルワールドデータという医療施設で実際に経験した例を広く収集・分析したデータも参考にしながら相談しています。

がん治療中の妊娠・出産を支える
「沖縄県妊娠期がん診療ネットワーク協議会」

 妊娠中にがんと診断された場合、治療に加えて妊娠・出産の医療的サポートも必要になります。沖縄県ではがん治療中の妊娠・出産を支えるために、2018年に「沖縄県妊娠期がん診療ネットワーク協議会」が発足しました。このネットワークは医療資源が限られる地域に住んでいる患者さんでも、大都市同様の医療を受けられる医療体制のモデルケースとして構築されました。
 サポート対象となる患者さんがいた場合、まず主治医から協議会事務局へ患者さんの情報が伝えられます。その情報をもとにがん専門医、産婦人科医、新生児科医、心療内科医などが一緒に治療内容や新生児のケアについて協議し、複数の科や施設で母子をサポートする体制を構築します(図1)。実際にこのネットワークを活用して元気な赤ちゃんを出産された乳がん患者さんから、「ネットワークのおかげで、沖縄全体で自分を支えてくれているという安心感があった。」という声が寄せられたことがありました。私自身、ネットワークの医療的メリットの大きさを感じますし、がん医療、がんの生殖医療の均てん化の観点からも、沖縄でこのようなネットワークを構築できた意義は大きいと思っています。

図1:沖縄県妊娠期がん診療ネットワーク協議会の流れについて

患者さん、ご家族へのメッセージ

 若年性の乳がん患者さんをはじめ、がんと告知された患者さんの精神的ショックはとても大きいと思います。我々医療従事者は患者さんの気持ちを考えずに「とにかく頑張りましょう」とは言いません。患者さんにはひとりで悩みや不安を抱えずに、我々医療従事者をいつでも相談できる相手だと思って何でも話してほしいと思います。
 そして、ぜひご家族にも一緒に治療に取り組む一員になっていただきたいです。できるだけ一緒に来院してがんに関する情報を共有していただき、がんは決して特別なものでないということをご家族にご理解いただければと思います。患者さんの治療中の悩みは尽きないと思いますが、ご家族が患者さんを特別扱いするのではなく、今まで通りに寄り添うことが治療中の大きなサポートになります。
 患者さんそれぞれの多種多様なライフスタイルや生活の背景に応じた治療を一緒に考え、一緒に治療に取り組んでいきましょう。

  • 1)日本乳癌学会(編):患者さんのための乳癌診療ガイドライン2023年版 第7版,金原書店,2023
  • 2)日本乳癌学会(編):乳癌診療ガイドライン ①治療編 2022年版 第5版,金原出版,2022
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