チームで寄り添う
乳がん診療マネジメント
足利赤十字病院 乳腺外科部長
戸倉 英之 先生
乳がん患者数は増加傾向にあり1)、乳がん治療は医療の進展により複雑化してきています。そのような状況のなかで、近年乳がん診療におけるチーム医療の必要性が高まっています。今回は、地域がん診療連携拠点病院である足利赤十字病院の戸倉英之先生に、チーム医療と乳がん薬物療法における副作用についてお話を伺いました。
取材日:2022年9月
公開日:2023年1月20日
更新:2024年9月
患者さんのためのチーム医療
乳がんの診療は、検診、診断、治療(手術、薬物療法、放射線療法など)と多岐にわたります。そのなかで一人一人の患者さんに適した医療を提供するために「チーム医療」は重要です。
チーム医療では医師のほかに薬剤師、看護師、栄養士、事務スタッフなど様々な職種が各々の専門分野で患者さんをサポートします。その結果、医療従事者と患者さんが関わる時間が増える、患者さんに関するより多くの情報をチームで共有できるなどのメリットが生じます。乳腺外科医はチームのコーディネーター役を担い、患者さんに適した治療が円滑に進むようにマネジメントします。私自身がチーム医療において大切にしているのは、一人一人のスタッフを尊敬して互いに補完し合える関係を築くこと、常に患者さんを中心に考えた医療を実践することです。
チーム医療は患者さんのためにあります。不安なことや辛いことがあれば一人で抱え込まずに、チームの医療従事者とよく相談しながら治療を続けていきましょう。
乳がん薬物療法の副作用と患者さんの苦痛
乳がんの薬物療法における主な副作用として、ホルモン療法薬ではホットフラッシュ(ほてり)や骨密度の低下など、分子標的薬では下痢や発疹など、抗がん薬では悪心・嘔吐や脱毛などがあります(図1)。
その中で、脱毛をはじめとする外見に関する副作用は、患者さんの苦痛が大きいと報告されています2)。現在、脱毛の予防に頭皮冷却という方法が使えるようになりました。頭皮冷却は脱毛を完全に予防することはできませんが、頭髪の一部が残ることや脱毛からの回復が早まることで、患者さんのQOL(生活の質)を改善させることが期待されています。現状、頭皮冷却は保険適用外で実施できる施設は限られていますが、今後、このような外見に関する副作用対策が確立、普及し、治療における患者さんの苦痛が少しでも減ることを願っています。
乳がんの薬物療法を行う場合、副作用が全くないということはありません。しかし、副作用に対する様々な予防や治療がありますので、必要以上に怖がらずに薬物療法に臨んでほしいと思います。
図1:抗がん薬による副作用発現時期の目安
副作用対策で目指すこと
治療は、病気を治すために患者さん自身の決断により行われるものです。治療のために副作用の辛さは我慢し、やりたいことを全て諦めないといけないわけではありません。我々は治療を円滑に進めるとともに、なるべく患者さんが希望に添った日常生活を過ごせるように副作用対策を行います。
長期にわたることもある乳がんの薬物療法において、その時々の辛さに早期に対応することが大切です。例えば、治療中に眠れなくて辛い時期があれば、睡眠を促す薬を使ったり、精神科の医師に相談したりするという選択肢もあります。患者さんには、副作用をコントロールしながら「治療中にどのように生活したいか」をぜひ考えていただき、医療従事者と共有してほしいと思います。そして、その希望について、我々は患者さんのためにできることをチームで考えていきます。
患者さん、ご家族へのメッセージ
乳がんの5年相対生存率*は92.3%まで上昇してきており1)、乳がんは決して治らない病気ではありません。がんと告知された時は大きな不安や混乱が生じてしまうと思いますが、徐々に気持ちが落ち着き、治療を続けながら自分らしい生活をしている患者さんは多くおられます。
我々医療従事者は患者さんにチームで寄り添い、乳がん治療を支えます。医療従事者のほかにも、ご家族や患者さん同士のコミュニュティーである「患者会」などのサポートも受けながら、自分に合った病気との向き合い方を探し、一緒に治療をしていきましょう。
*:治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標で、100%に近いほど治療で生命を救えるがんであることを意味します1)。
- 1)国立がん研究センターがん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/index.html (2022年12月閲覧)
- 2)野澤桂子ほか:臨床で活かすがん患者のアピアランスケア, 南山堂, P2-5, 2017