乳がんの早期発見
乳がんとは
乳房の構造と乳がんの発生
乳房は乳腺組織と脂肪組織からなり、乳腺組織は母乳を作る「小葉」と、作られた母乳を運ぶ「乳管」に分かれています(図)。乳がんはこの乳腺組織に発生する腫瘍です。自分でしこりに気付くことも少なくありません。
乳管や小葉に発生した乳がん細胞は成長(増殖)して乳管内を移動します。乳管や小葉の外の間質に浸潤すると、リンパや血液の流れに乗って全身に運ばれて、さらに増殖すると他の臓器に転移します。
がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているものを「非浸潤がん」といい、早期乳がんとされています。それに対し、間質に浸潤して外の組織に広がっている乳がんを「浸潤がん」といいます。このほかに、「Paget病(パジェット病)」という、まれな乳がんもあります。しこりはみられないケースが多く、乳頭・乳輪に湿疹ができたり、赤くなったりする乳頭のがんです。

乳がんの分類
乳がんは、非浸潤がん、微小浸潤がん、浸潤がん、Paget病の大きく4つに分けられ、さらにいくつかの種類に細分化されます(図)。非浸潤がんは、がんが発生する場所によって「非浸潤性乳管がん(DCIS)」と「非浸潤性小葉がん(LCIS)」に分けられます。浸潤がんは、「浸潤性乳管がん」と「特殊型」に分けられます。浸潤性乳管がんは、さらにがん細胞の性質によって、乳頭状増殖*及び管腔形成**を示す「腺管形成型」、周辺組織に対して圧排性ないし膨張性の発育を示し、比較的増殖が速い「充実型」、間質の結合組織の増殖を伴いがん細胞が個々に(細かくバラバラに)浸潤する傾向を示す「硬性型」とに分けられます。特殊型は頻度が少なく、まれなタイプのがんです。
*乳頭状増殖:ポリープのような増殖
**管腔形成:がん細胞が集まってパイプのように中が空洞の状態になること

乳がんが発生しやすいところ
乳腺組織が最も多い乳房の外側の上部は、他の部位と比較して乳がんが発生しやすい場所です(図)。自己検診の際にも注意深く確認しましょう。また、複数の部位にできることもあります。

乳がんと間違えやすい代表的な乳腺の症状と病気
乳がんと似たような症状があり、よく起こる良性の乳腺の病気には、「乳腺症」、「乳腺炎」、「乳腺線維腺腫」があります。
「乳腺症」は、30~40歳代の女性にみられる症状で、主な症状は硬結、疼痛(乳房痛)、異常乳頭分泌です。乳腺症は、月経周期に合わせて卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が関わっています。閉経すると卵巣機能が低下するため、これらの症状は自然に消えていきます。
「乳腺炎」は、乳汁のうっ滞や、細菌感染によって起こる乳房の炎症です。赤く腫れたり、痛みや膿、しこりなどがみられます。特に授乳期に、母乳が乳房内にたまって炎症を起こす「うっ滞性乳腺炎」がよくみられます。乳頭から細菌感染を起こすと、「化膿性乳腺炎」となって、膿が出るようになります。
「乳腺線維腺腫」は、10歳代後半~40歳代の人に多く起こります。触るとよく動く、ころころした良性のしこりです。組織学的に線維腺腫と診断されれば、特別な治療は必要ありません。閉経後にしぼんでしまうことが多く、乳がんの発症とは関係ありません。
疾患名 | 好発時期 | 主な症状 |
---|---|---|
乳腺症 | 30〜40歳代 | 硬結、疼痛(乳房痛)、異常乳頭分泌 |
乳腺炎 | 授乳期に 起こりやすい | 赤く腫れる、痛み、膿、しこり |
乳腺線維腺腫 | 10歳代後半 〜40歳代 | ころころした、よく動くしこり |
監修者略歴
東北医科薬科大学
乳腺・内分泌外科 教授
鈴木 昭彦(すずき あきひこ)先生
- 1992年東北大学医学部卒業
- 1992年〜1995年福島市大原総合病院にて外科研修
- 1995年東北大学医学部 第2外科入局
- 2000年東北大学大学院医学系研究科 卒業(医学博士)
- 2000年~2003年米国コロンビア大学留学(病理学 Fellow)
- 2003年 5月東北大学大学院医学系研究科腫瘍外科 医員
- 2003年10月東北大学大学院医学系研究科腫瘍外科
(乳腺・内分泌外科)助手 - 2008年 4月同 講師
- 2009年 4月八戸市立市民病院 乳腺外科部長
- 2011年 4月東北大学病院乳腺内分泌外科 講師
- 2013年 7月東北大学大学院 先端画像・
ナノ医科学寄附講座 准教授 - 2017年 4月東北医科薬科大学 乳腺・内分泌外科 教授
- 【資格・所属学会など】
- 日本外科学会専門医
- 日本乳癌学会専門医
- 日本乳癌検診学会評議員