ホーム専門医が解説する乳がん治療再発・転移の治療転移部位別の治療法

再発・転移の治療

2015年3月16日 公開
2023年12月 更新
監修:兵庫県立がんセンター腫瘍内科
部長(診療科長)・外来化学療法室センター長・遺伝診療科科長
松本 光史 先生

転移部位別の治療法

遠隔転移の治療では、転移したがんの性質に応じた薬物療法とともに、転移した部位によって異なる症状を和らげる治療を行います。

《再発・転移しやすい部位と主な症状》骨転移、発生率は約29%、症状は痛みや骨折。転移の多い部位は脊椎、肋骨、大腿骨、骨盤、上腕骨。局所・リンパ節、発生率は約15%、症状はしこり。肺転移、発生率は約19%、症状はせき、息切れ、動悸。肝転移、発生率は約8%、症状は出にくいが、お腹がはる、みぞおちの圧迫感、横断などがあらわれる。脳転移、発生率は約2%、症状は転移した部位によって異なるが、頭痛、嘔吐、麻痺、手足が動かしにくいなどの症状があらわれる。

骨転移の症状と治療法

骨転移は遠隔転移の中でもっとも多く、再発・転移がんの約30%の患者さんに起こり、術後10年以上経ってから出ることもあります。
骨転移が疑われる場合には、骨シンチグラフィやPET-CTなどの画像検査を行い、全身の骨を調べます。
骨に転移したがん細胞は、骨を破壊していくため、痛みや骨折を起こしやすくなります。骨転移自体には、生命の危険はありませんが、QOLを大きく損なうため、骨転移の治療では、乳がんの進行を抑える治療とともに、痛みを和らげたり、骨折を予防する治療が大切です。

薬物療法

乳がんの性質に応じた全身療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的療法)を行うと同時に、骨転移の進行を抑えたり、骨折を予防するために、ビスホスホネート製剤などを使用します。
痛みが強い場合には、消炎鎮痛薬や麻薬系鎮痛薬などを使用します。痛みがあったらがまんせず、遠慮なく主治医に相談しましょう。

放射線療法

痛みが強く、痛みのある範囲が限られている場合には放射線療法が効果的です。60~80%の患者さんに、痛みを和らげたり止めたりする効果が期待できます。
なお、骨転移があちこちにみられ、放射線照射ができないような多発性の骨転移には、放射性同位元素を注射することで、痛みを和らげる治療法もあります。

手術療法

大腿骨に転移したり、腰椎や胸椎に転移があり、骨折すると著しく日常生活に支障をきたすおそれがある場合には、予防的に整形外科的な手術を行うこともあります。

肺転移、肝転移の治療法

肺や肝臓などの内臓に転移がある場合には、転移の状況や症状によって、ホルモン療法や化学療法など全身療法を行います。肝転移は自覚症状が出にくく、また肝転移のみで見つかることはまれなため、全身療法が中心です。
肺転移による咳や息切れなどの呼吸器症状がみられるときには、乳がんの薬物療法に加え、咳止め薬や酸素療法など、症状を和らげる治療も合わせて行います。

脳転移の治療法

脳転移は、転移する場所によって、手のしびれや麻痺など、様々な症状が現れます。治療は転移巣を小さくして症状を和らげることを目的として、主に放射線療法を行います。

手術療法

転移巣が1つで手術しやすい場所にあり、他の臓器には転移がなく全身状態がよい場合には、手術により切除することもあります。複数の転移がある場合には一般的に手術は勧められません。

放射線療法

放射線療法には、脳全体に放射線をあてる全脳照射と、病巣のみに放射線をあてる定位照射の2種類の方法があります。
放射線治療の基本は全脳照射ですが、脳転移が3個以下でかつ全て小さい(一般的には3cm以下)場合には最初に定位照射を行うこともあります。4個以上ある場合には全脳照射を行うことが勧められます。

薬物療法

脳は他の臓器と異なり、脳と血管の間に血液脳関門(Blood-Brain Barrier:BBB)と呼ばれる壁があり、抗がん薬(抗がん剤)が脳に届きにくいため、他の臓器のような効果が期待できません。HER2陽性乳がんの場合には、分子量の小さい経口の分子標的治療薬が有効とされています。

腫瘍内科医の役割とは

みなさんは「腫瘍内科」をご存じでしょうか?
腫瘍内科医は、乳がん内科医ではありませんし、もちろん手術を行う外科医でもありません。特定のがんだけでなく、様々な種類のがんの患者さんを診療する内科医です。
がんの薬物療法の専門家として、患者さんの将来をより遠くまで、より精密に予測して、患者さんと相談したうえで、いまの患者さんにとって最良と思われる治療を提案します。
薬物療法が中心となる再発・転移乳がんの患者さんの治療では、われわれ腫瘍内科医の出番が多くなります。化学療法やホルモン療法などを行うのが基本的な仕事ですが、緩和ケアも含め、患者さんの痛みやつらい症状を和らげる治療も担っています。
“Treatment navigator”と表現することもありますが、患者さんの伴走者として、予防や検診、診断、治療、サバイバーシップも含めた治療後の生活など、幅広く患者さんのがん診療をサポートするのが腫瘍内科医の大切な役割と考えています。
再発治療の道のりは長く、つらいことも少なくないでしょう。ですが、様々な職種の医療スタッフが患者さんを支えていることを忘れないでください。われわれと一緒に、「乳がんとの上手な共存」を目指して、治療に取り組んでいきましょう。

*:サバイバーシップとは、がん患者さんが生活していく上で直面する問題を乗り越えていくこと

監修者略歴

兵庫県立がんセンター腫瘍内科
部長(診療科長)・外来化学療法室センター長・遺伝診療科科長
松本 光史(まつもと こうじ)先生

  • 1999年京都府立医科大学卒業
  • 1999年同大学第一内科にて初期研修
  • 2001年国立がんセンター中央病院にて内科レジデント
  • 2004年同病院乳腺・腫瘍内科にてがん専門修練医
  • 2006年兵庫県立がんセンター腫瘍内科医長兼外来化学療法室副室長
  • 2011年同腫瘍内科医長兼外来化学療法室室長
  • 2013年同腫瘍内科科長兼外来化学療法室室長
  • 2017年同腫瘍内科医長兼外来化学療法室センター長
  • 2019年同腫瘍内科部長(診療科長)兼外来化学療法室センター長
  • 2021年同腫瘍内科部長(診療科長)兼外来化学療法室センター長
    兼遺伝診療科科長
  • 【専門医】
  • 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医
  • 日本乳癌学会乳腺専門医・指導医
  • 日本内科学会認定総合内科専門医・認定医
  • 日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医
  • 日本遺伝性腫瘍学会遺伝性腫瘍専門医
  • 【学会】
  • 日本臨床腫瘍学会、日本乳癌学会、
    日本がんサポーティブケア学会、日本人類遺伝学会、
    日本家族性腫瘍学会、日本婦人科腫瘍学会、
    日本サルコーマ治療研究学会、日本内科学会、
    ASCO、ESMO