もっと知りたい乳がんの治療薬
がん薬物療法をサポートする支持療法薬
支持療法とは、がんに伴う症状や、治療によって起こる副作用に対して、予防的な対策や症状の軽減を目的として行う治療です。抗がん薬の投与によって起こる副作用に対して、薬を投与することで症状の改善が図れます。このような支持療法に使用する薬を支持療法薬といいます。現在使われている代表的な支持療法薬を紹介します。
アレルギー反応に対する薬
身体の中に、外から有害な物質(抗原)が入ってきたとき、身体の中では抗体という物質が作られます。抗体は、抗原を攻撃するための目印となり、目印を頼りに抗原を攻撃・排除して、身体を有害な物質から守っています(図)。この反応を「免疫反応」といい、誰にでも備わっている自己防衛反応です。ところが、免疫反応が過敏になり、反応してほしくない物質にも反応してしまうと、アレルギー症状があらわれます。
抗がん薬投与後にも、皮膚にかゆみや発疹、発熱などのアレルギー症状があらわれることがあります。これは、抗がん薬の成分に対して過敏反応が起きているためで、初めて治療薬を投与するときなどに起こることがあります。
アレルギー反応は誰に起こるか予測ができないので、過敏反応を起こしやすい抗がん薬を投与する場合には、抗ヒスタミン薬やステロイド薬といった薬を事前に投与します。このように予防対策をとることで、アレルギー症状があらわれるのを最小限にとどめて治療を行うことができるようにしています。

吐き気・嘔吐に対する薬
抗がん薬によっては、ムカムカしたり、吐き気を感じて嘔吐したりすることがあります。吐き気や嘔吐などを起こしやすい抗がん薬を投与する場合には、それらの症状を予防したり、抑えたりする目的で、制吐薬(制吐剤)を投与します。あらわれる症状の強さは、投与する抗がん薬の種類によって異なることが、ある程度予測できます。そのため、適切と思われる制吐剤をあらかじめ組み込んで、抗がん薬を投与する前に用います。
また、抗がん薬投与による吐き気や嘔吐は、投与後24時間以内にでてくる「急性悪心・嘔吐」、24時間後から1週間くらいの間に出てくる「遅発性悪心・嘔吐」と、精神的な原因で経験などから心配するあまりに起こってしまう「予測性悪心・嘔吐」、制吐薬を予防的に投与していても出てくる「突出性悪心・嘔吐」のタイプに分けられます。これらのタイプによってもそれぞれに適した薬があり、抗がん薬の特徴を考慮し、患者さんの状況に合わせて使い分けながら、症状を緩和していきます。
一つの薬が十分に効かなくても、別の薬で症状が改善する場合がありますので、遠慮せずに主治医や薬剤師、看護師に相談しましょう。
血球成分の減少や感染に対する薬剤
抗がん薬は、活発に増殖する細胞に大きく影響を与えるという特徴があります。そのため、日々活発に新たな血液の成分を作っている骨髄は、抗がん薬の影響を受けやすく、投与により、血液の中の白血球や赤血球、血小板などが低下することがあります。
特に、白血球の仲間である好中球は、病原菌などと戦い、病気から体を守る働きがあるため、好中球が減ってしまうと、感染症を起こしやすくなります。そのために、好中球を増やす薬剤(顆粒球コロニー刺激因子:G-CSF製剤)を投与する場合があります。
監修者略歴
地方独立行政法人大阪府立病院機構
大阪国際がんセンター 薬局 薬局長
髙木 麻里(たかぎ まり)先生
- 1993年3月大阪薬科大学薬学部卒業
- 1993年4月大阪府立母子保健総合医療センター(現 大阪母子医療センター)薬局
- 1996年4月大阪府立羽曳野病院(現 大阪はびきの医療センター)薬局
- 2006年4月大阪府立急性期・総合医療センター 薬局
- 2018年4月大阪国際がんセンター 薬局
- 【所属学会】
- 日本医療薬学会:がん専門薬剤師研修小委員会
- 日本病院薬剤師会
- 日本緩和医療薬学会
- 日本癌治療学会
- 日本臨床腫瘍学会
- 日本乳癌学会
- 日本臨床腫瘍循環器学会
- 日本臨床腫瘍薬学会
- 【認定】
- 日本医療薬学会 指導薬剤師
- 日本医療薬学会 専門薬剤師
- 日本医療薬学会 がん指導薬剤師
- 日本医療薬学会 がん専門薬剤師
- 日本病院薬剤師会 がん薬物療法認定薬剤師
- 日本緩和医療薬学会 緩和医療暫定指導薬剤師
- 日本緩和医療薬学会 緩和薬物療法認定薬剤師