術前・術後薬物療法監修:愛知県がんセンター中央病院 乳腺科 医長 澤木正孝先生

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公開日:2014年06月30日

ホルモン療法と化学療法

閉経前後で変わるホルモン療法

ホルモン受容体陽性乳がんではホルモン療法が中心となりますが、乳がんの増殖に影響するエストロゲンは、閉経前後によって体内での作られ方が異なります。そのため、ホルモン療法を行う場合には、閉経の状況によって使われる薬剤も異なります。

閉経前乳がん

閉経前の女性では、主に卵巣でエストロゲンが作られます。脳から「女性ホルモンを分泌しなさい」と命令するホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン:LH-RH)が出されると、その命令が卵巣へと伝わり、エストロゲンが作られ、分泌されます。
この卵巣を刺激する脳の下垂体の働きを抑える薬剤を「LH-RHアゴニスト製剤」といいます。LH-RHアゴニスト製剤は、LH-RHの働きを抑えることによって、卵巣でエストロゲンが作られるのを抑え、がんの増殖を抑制します。

閉経後乳がん

卵巣でエストロゲンを作る機能は加齢とともに低下していきます。そして、閉経後は副腎皮質や脂肪組織などでエストロゲンが作られます。副腎皮質では「アロマターゼ」という酵素が働いて、男性ホルモンからエストロゲンが作られます。そのため、閉経後乳がんの患者さんには「アロマターゼ阻害薬」といわれるこの酵素の働きを抑制する薬剤が推奨されています。アロマターゼの働きを抑制することで、エストロゲンを減らし、がんの増殖を抑制します。

エストロゲンの合成とホルモン剤の作用の図。エストロゲンの合成は閉経前後で異なる。閉経前は、LH-RHがエストロゲンの分泌に大きく関与。多量のエストロゲンが乳がん細胞の増殖を促す。LH-RHアゴニスト製剤は、LH-RHの働きを抑え、エストロゲンの分泌を抑制。閉経後は、アロマターゼがエストロゲンの分泌に大きく関与。アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼの働きを抑制してエストロゲンの分泌を抑制。抗エストロゲン薬は、エストロゲンの働きを抑える。

抗エストロゲン薬

女性ホルモンであるエストロゲンは、乳がんに対しては増殖を促すように働きますが、本来は女性の身体を守る働きをしています。エストロゲン受容体は乳腺以外にも身体のあちこちにあり、様々な臓器でエストロゲンが作用しています。閉経後に更年期障害や骨がもろくなる骨粗しょう症、脂質(コレステロールなど)代謝異常になりやすいのは、エストロゲンが減少して、その働きが弱まるためです。

抗エストロゲン薬は、がん細胞のホルモン受容体を標的とするため、基本的に閉経の前後にかかわらず推奨されています。主に使われている抗エストロゲン薬は、SERMs(Selective estrogen-receptor modulators)といわれ、乳がん細胞に対してはエストロゲンを抑制する働きをしますが、骨や脂質代謝などに対してはエストロゲンと同様の働きをします。
また、エストロゲン受容体の分解を促し、エストロゲンの作用を抑制するSERD(Selective estrogen receptor down regulator)と呼ばれるSERMsとは異なるタイプの抗エストロゲン薬もあり、進行・再発乳がんの治療に使われています。

ホルモン療法薬の併用療法

がん細胞の増殖を引き起こすタンパク質(サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6)を阻害する「CDK4/6阻害薬」という分子標的治療薬が登場し、進行・再発乳がん患者さんにホルモン療法薬と併用して使われます。併用するホルモン療法薬は、「ホルモン療法を受けたことがあるかどうか」、「閉経しているかどうか」によって異なります。閉経後の進行乳がんでホルモン療法を受けたことがない患者さんに適用する場合には、アロマターゼ阻害薬と併用します。閉経しているかどうかに関わらず、既にホルモン療法を受けている進行・再発乳がんの患者さんに適用する場合には、SERDと併用します。

化学療法

ホルモン受容体陰性の乳がんの薬物療法では化学療法が中心となります。また、HER2陽性乳がんでは抗HER2療法と化学療法を併用することがあります。がんの化学療法は、何種類かの抗がん薬(抗がん剤)を併用することが多く、その組み合わせをレジメンといいます。レジメンは作用の異なる複数の抗がん剤を併用することで、より効果的にがん細胞を攻撃することを狙いとしています。

お薬の投与量やサイクル数はおおよそ定められていますが、実際には主治医が基礎疾患や年齢、副作用の現われ方、などによって一人ひとりに最適と思われる方法を検討して実施されます。

薬物療法の副作用については「副作用対策」の項目をご参照ください。

術前・術後薬物療法とは術後放射線療法

監修者略歴

愛知県がんセンター中央病院 乳腺科医長 澤木正孝(さわきまさたか)先生

  • 1995年名古屋大学医学部医学科卒業、第二外科入局
  • 2001年癌研究会附属病院 乳腺外科レジデント
  • 2002年癌研究会附属病院 化学療法科レジデント、
    癌研究会癌研究所 病理部研究生
  • 2003年名古屋大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科医員
  • 2005年名古屋大学大学院医学系研究科博士課程(内分泌・移植外科学) 修了
  • 2006年名古屋大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科病院助手
  • 2007年名古屋大学大学院医学系研究科 特任講師
  • 2011年愛知県がんセンター中央病院 乳腺科医長

【学会専門医・資格】
博士(医学)
日本臨床腫瘍学会:協議員、指導医、がん薬物療法専門医、高齢者がん薬物療法ガイドライン作成委員
日本乳癌学会:評議員、乳腺専門医、外科療法ガイドライン作成委員
日本外科学会:指導医、外科専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ読影認定医(AS評価)
日本消化器病学会 消化器病専門医
麻酔科標榜医

【その他 所属学会】
米国臨床腫瘍学会 (ASCO)、日本癌学会、日本癌治療学会、日本老年医学会、日本女性医学学会、日本家族性腫瘍学会、日本臨床外科学会 他

2019年1月

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