ホームエキスパートインタビュー乳がんの早期発見をめざして~診断に必要な検査の特徴と目的を知ろう第1回 乳がんの早期発見のために~乳がん検診はなぜ必要?

乳がんの早期発見をめざして
~診断に必要な検査の特徴と目的を知ろう

大阪大学大学院医学系研究科 
外科学講座乳腺内分泌外科学

教授 島津 研三 先生

島津 研三先生

乳がんは今や日本人女性の9人に1人が罹患すると言われており1)、乳がん検診を受ける方は徐々に増加しています。結果の如何にかかわらず、診断を確定するためには問診、画像検査、病理検査などを順次受けることになり、診断後も治療に向けて術式や薬物療法などを決定するための検査が続きます。

乳がん検診はなぜ必要なのでしょうか、そして乳がんを診断・治療するためにに必要な検査にはどのような特徴があるのでしょうか。乳がんの病期診断に有効とされるセンチネルリンパ節生検を専門に研究され、様々な診断方法を追求してこられた島津先生に解説していただくとともに、乳がん診断の今後の展望についても伺いました。

1)国立がん研究センター がん情報サービス:最新がん統計(2019年データに基づく) (https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html) 2023年8月閲覧

【取材】2023年5月 日本化薬本社

島津 研三先生

第1回 乳がんの早期発見のために~乳がん検診はなぜ必要?

 第1回では、最近よく耳にする「ブレスト・アウェアネス」という言葉と自己検診との違い、そして早期発見の重要性について伺います。

ブレスト・アウェアネスとはなんでしょうか?

まずは乳房を意識する生活習慣から

 「自己検診してください」と言われると、少し敷居が高い感じがしませんか?「ブレスト・アウェアネス」という言葉は、その敷居の高さを少し下げてくれるような感覚ではないかと思っています。ブレストは“乳房”、アウェアネスとは“意識”や”気づく”といった意味です。”日常生活の中で自分の乳房について知っておくこと、意識しておくこと”のすべてがブレスト・アウェアネスです。
 もちろん自分の乳房を触る習慣をつけることが第一なのですが、医師の行う触診のように難しく考える必要はありません。ハードルを上げてしまっては続けられませんから、もっと気軽に捉えてみてください。生活習慣として自分の乳房についてよく知っておく、意識を持ち続けていくことだと考えましょう。

島津先生

やり方にこだわらず、乳房に触る習慣をつける。異常があったら受診する。

 とにかく乳房をよく触ってみましょう。例えば入浴中の10秒程度で大丈夫です。毎日でも気づいた時でも結構ですが、以前と比べての変化を感じることが大切です。できれば、月に一回、日にちを決めて行うことをお勧めします。
 これを市民公開講座などでお話しすると、「どのような触り方をしたらいいですか?」と聞かれることがありますが、決まったやり方はありません。横から流す方法、8の字で触る方法など何でもよいので、まんべんなく触ることが大切です。しかし、触って何かを見つけても病院に行かなければ意味がありませんから、見つかったときはきちんと受診してください。そこまでがブレスト・アウェアネスです。

乳がん検診もブレスト・アウェアネスの一つ

 定期的に乳がん検診を受けることもブレスト・アウェアネスに入ります。無関心なのではなく、「がんが見つかると怖いから触らない、検診も行かない」という人も中にはいますが、そうした心のハードルが低くなることを願っています。早期発見のために、日頃から自分の乳房についてよく知り、意識しておきましょう。

 日頃から意識していれば、早期発見ができる。早期発見ができれば、さまざまな負担が軽くなる。日常生活の中で乳房への意識を持ち続けるのがブレスト・アウェアネスなのですね。

対策型・任意型乳がん検診のメリットとデメリットとは?

対策型検診(マンモグラフィ検診)は科学的根拠に基づいた検査方法

 自治体住民を対象とした対策型乳がん検診は、マンモグラフィで行われるのが原則です。マンモグラフィ検診は乳がんの死亡率を低下させることが裏付けられている唯一の検診方法であり、2年に一度とされています。40歳以上の女性に対する2年に一度のマンモグラフィ検診は、乳がんによる死亡率を低下させることが明らかとなっています1)
 マンモグラフィは検査時間が短く、検診向きの検査とも言えます。乳房を圧迫するので痛いのが難点ですが、圧迫するのは正常な乳腺としこりの重なりを少なくしてがんを見つけやすくするため、乳房全体について見やすい鮮明な画像を得るため、といった理由があるからです。
 不利益(デメリット)としては、過剰な検査数が生じてしまうことが挙げられます。乳がん検診の受診者に対して乳がんの発見率は0.28%です(2)。実は、マンモグラフィで要精密検査と判定されて実際に乳がんが発見された人よりも、異常がなかった人の数のほうが圧倒的に多いのです。つまり、それだけ膨大な数の検査が行われてしまっていることになり、個人としても負担になりますし、国としても医療費の増大に繋がるというデメリットがあります。しかし、がんを見逃さないようにするには要精密検査対象の範囲をある程度広げる必要があるということも理解しておいてください。

1)国立がん研究センターがん情報サービス:乳がん検診
https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/screening/screening_breast.html)2023年8月閲覧
2)日本対がん協会:日本対がん協会グループのがん検診実施状況(2021年度抜粋)より作成
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AE%E6%8E%A8%E9%80%B2)2023年8月閲覧

図:乳がん検診による乳がんの発見率

任意型検診では超音波検査(エコー)も受けられる

 人間ドックなどの任意型検診は基本的に1年に1度の実施であること、そしてマンモグラフィだけでなく超音波検査(エコー)も受けられることがメリットです。日本人女性はデンスブレスト(高濃度乳房)でエコーが有効な人が多いので、エコーが受けられるのは任意型の良いところかと思います。デンスブレストとは乳房内の乳腺と脂肪の割合を表す言葉であって病気ではありません。デンスブレストの人はマンモグラフィでは乳がんが発見されにくいため、エコー検査も考慮することが勧められます。

マンモグラフィ検診では新型コロナワクチン接種とのスケジュールに注意

 最近では、新型コロナウイルスのワクチン接種によって接種側の腋窩リンパ節(わきの下のリンパ節)が腫れることがありますから、マンモグラフィ検診はワクチン接種前に受けることをお勧めします。もし検診前に接種した場合は、1ヵ月程度の間隔を空ければ問題ないので、その後速やかに検診を受けてください。日本乳癌検診学会では「ワクチン接種後の乳がん検診を必要以上に間隔を空けることを推奨しない。可能であればワクチン接種から4~6週間間隔を空けることを考慮してもよい」としています。

参考:日本乳癌検診学会:乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応の手引きVer.3.0 2022年10月)
http://www.jabcs.jp/images/covid-guide_202210.pdf)2023年8月閲覧

 新型コロナウイルスワクチン接種後はわきや腕が腫れることがありますが、乳がん検診を先延ばしにするのもよくないのですね。両者の予定がある場合は注意が必要ですね。

第2回では、マンモグラフィとエコーの役割の違いをはじめ、乳がんの確定診断に必要な画像検査、病理検査について伺います。